ヒロインになれない!

こんな風に、私達の生活は始まった。
恭兄さまのために、毎週無農薬野菜を取寄せ、化学調味料の入ってない調味料を揃え、電気分解水の機械を水道に取り付けた。
お台所の便利な家電は少しずつ揃えていかなければならない。
さすがに、電子レンジがないのは不便なので早々に欲しいけど。

お掃除は、これまで通り、週に2度、専門のかたが来て下さるらしい。
お洗濯は、意外なことに、恭兄さまがこだわりを持って、ご自分でやってらした。
……なんでも、市販の洗濯洗剤や柔軟剤の匂いで頭痛がするらしい。
純石鹸の粉をお湯でしっかり溶かして泡立ててから洗濯するそうだ。
めんどくさそうなので、お任せすることにして、下着類だけは自分で洗うようにしよう。

恭兄さまは、この春、めでたく東京大学をご卒業された。
普通に就職はされないだろうな、と思っていたのだが、いくつかの小さな会社のペーパー役員となるらしい。
名前を貸すだけの、役員?
よくわからないけれど、収入の道を確保しなければ、毎日大量に消費する和紙や半紙をまかなえないと思う。

一緒に暮らしてみて、驚いたのは、やはり、恭兄さまの書。
体の一部のように筆を持ち、ずっと書いてらっしゃる。
お声をかけないと、寝食を忘れて打ち込まれるらしい。
すごい集中力だけど、何せ以前は、本当に食べずに没頭してらしたので、満足のいく字を書き上げると必ず寝込んでしまったそうだ。
お願いやから、ご自愛ください。

ちなみに、恭兄さまは、書展にも一切出されないので、一般的には書家として有名ではない。
でも、天花寺(てんげいじ)の名前を知るごく一部の社会では未だに重宝され崇められていらっしゃる。
そのためのお付き合いの関係で、東京を離れられないのが実情らしい。
霞会をはじめとした、旧華族関係のいろんな会。
月に何度か、正装でお出かけされるけど、ぐったり疲れてお帰りになるので、やはり大変なんだろうな。

しかも、やはり恭兄さまのお口には合わないお料理が出るらしい……もちろん外ではお行儀よく黙って召しあがってらっしゃるらしいけど。

帰宅するなり、
「お茶漬け食べたい!」
と騒ぐ恭兄さまは、失礼ながら、やはりかわいい。



4月に入り、私は真新しい制服で編入先の高校に通い始めた。
知織ちゃんと選択科目を一緒にしたので、無事に同じクラスにもなれた。