ヒロインになれない!

「あの後すぐ仰ってくだされば、ぎりぎり間に合いましたのに。遅いわ。」

そんなふうに言いながらも、私は喜びを抑えきれなかった。
1月に買った近江米と六甲の水、さっき使おうとして製造年月日が変わってることに気づいた。
どうやら恭兄さまは、お米を炊いて食べることを覚えたんじゃないかな。
それで両方ともご自分で買い足されたのではなかろうか。

あれ以来、実家から京都の食べ物を、私からも作ったお料理を冷凍してお送りし続けた甲斐はあったらしい。
すぐきもイカナゴのくぎ煮も、最高の「ご飯の友」やもんね。

「今回は、ふきみそを炊いてきました。ふきのとう、お好きですか?」
山に摘みに行くのも楽しいし、八百屋さんで高いー!って思いながら買うのも早春の小さな贅沢。
甘辛く炊いた中に春らしい爽やかな苦味がたまらなく、好き。

恭兄さまも、炊きたてのご飯と一緒に食べてくださった。
……つくづく、このかたは、いわゆる「高貴なお生まれ」なんだなあ、と見つめる。

本当に比喩じゃなくて、お箸の先だけしか汚さずに食べてはる。
私にはとても無理だ。

「由未ちゃん、食べないの?どれも美味しいよ?」
ため息をついた私に恭兄さまが尋ねる。

私は苦笑した。
「ありがとうございます。猛特訓してきた甲斐ありましたわ。でも、お料理はマサコさんに及第点いただいたけど……テーブルマナーはまだまだみたいです。」

しょっちゅうセルジュに注意されてたけど、もっと真面目に練習してけばよかった、と、私は心から後悔した。

恭兄さまは、首をかしげて
「充分綺麗に食べてると思うけど?」
と言ってくださった。

自分でもそう思ってたけどね、目の前でこんなに美しく召し上がられると、なあ。
「日々、勉強ですね。」

「……無理しなくても、そのままでいいと思うけどね。お料理も、こんなにがんばる必要ないから。」

こんなに、って。

今日の献立は、メインが、さわらの焼いたん。
ホタルイカとわけぎのぬた。
菜の花のおひたし。
あさりのお味噌汁。
持参した、ふきみそ。
デザートは、苺。

……どうやら恭兄さまは、洋食を好まれず、やたら和食に執着されているらしいので、こんな感じにしてみた。
マサコさんが作ってくださってた夕食と同じように、季節の素材の一汁三菜。

「僕は、由未ちゃんが作ってくれるなら、一汁一菜とお漬け物で充分。」

いや、それじゃ私が淋しいし、栄養も偏りそうなので。

「4月に入ったらお弁当のおかずにも連用したいから、一菜じゃ足りひんのです。ま、無理する気はさらさらありませんし、手抜きもすると思います。でもなるべく季節のものを食べましょう。」

恭兄さまはうれしそうにうなずいた。