ヒロインになれない!

編入すれば学校生活に慣れるまで大変やろうに、家主の食事を準備する義務を背負ってしまった。
……でも……やつれたお姿は、やっぱり痛々しい。
私は天を仰いでため息をついた。

「わかりました。お料理、もうちょっと勉強してきます。また寄りますね。」
「うん、待ってる。」

なんだかなあ。
昔、恭兄さまに美味しい和菓子で餌付けされたけど、今日は白味噌のお雑煮で恭兄さまを餌付けしてしまったのか。
それにしても、あんなにめんどくさい人だったとは……。

東京駅で部員と合流し、新幹線で帰路に就く。
和也先輩達は、勝ち上がった強豪校の試合を見てきたらしい。
わいわい盛り上がってるのを聞きながら、私は目を閉じた。



2月28日。
和也先輩は卒業式を迎えた。
レトロな風習ながら、先輩の学ランの第2ボタン争奪戦はすさまじかった。
なぜか他校の生徒まで紛れこんでいた。

結局、希望者全員でジャンケン大会をして、校章や袖のボタンまで分けあった。
……が、私はあっさり負けて、何ももらえなかった。

見かねたあおいちゃんが、ボタンのなくなった和也先輩を、帰り道で捕まえて、公園に引っ張り込んでくれた。
「佐々木!由未ちゃんにも何かちょうだい!」

和也先輩は、頭をかいた。
「何かってゆーても……卒業証書ぐらいしか、もう持ってへん。」

あおいちゃんは、私を和也先輩のほうへ思いっきり突き飛ばした。
「ほな、せめて思い出あげー!」

……そんな強引な……。
バランスを崩して倒れそうな私を、慌てて和也先輩が受けとめてくれた。
想像以上にたくましい体に、ドキドキと心臓が騒ぎ立てる。
「大丈夫か?……吉川!無茶すんな!」

あおいちゃんがきゃらきゃら笑って行こうとするのを、和也先輩が慌てて呼びとめた。
「吉川!」

あおいちゃんは立ち止ったけど、背中を向けたままだった。

「3年間、ありがとう。俺、全国行けたん、お前のおかげやと思っとー。小門(こかど)先輩と……」
そこまで言って、和也先輩は私の両腕を掴んでる手に、ぎゅっと力を入れた。
「小門先輩と幸せにな!俺、お前のこと好きやった!」

……和也先輩は私を抱きとめたまま、あおいちゃんに3年間の想いを告白した……らしい。

あおいちゃんは、背中を向けたまま、舌打ちして、ずんずん行ってしまった。

わかってはいたけれど、この状況……さすがに、きついな。

和也先輩は、振り返りもしないあおいちゃんの背中を見送り、ため息をついてから、我に返り、慌てて私から手を離した。
「ご、ごめん!忘れてた!」

……はい、忘れられてました。