「来年は東京の高校に編入しなさい。改めての試験は必要ないそうだ。」
「は!?」
お盆に実家に帰省した時、父が私に、突然そう言った。

高校2年の夏。
……結局、高校総体(インターハイ)の県大会で我が校は準優勝に終わった。
和也先輩は今回も優秀選手に選ばれ、キャプテンを後輩に譲って部の運営を任せて、今は国体に向けて選抜チームの練習に通っている。
あおいちゃんと私は、一旦お役御免にしてもらった。
まあ、選手権予選の前にはまた召集されるのだが。

私はともかく、あおいちゃんは本当にお役立ちなので、来年も協力してほしいと新キャプテンに頼まれてもいるのだが……え?東京?編入?

「急に、なんで?」

ぽかーんとしてる私を、父がじろりと睨んだ。

「嫌なのか?中学の時のお友達、知織ちゃんだったな、彼女とまた一緒に学ぶといい。」

……いや、とか、そういう問題じゃなくて……。

父の意図がわからず困っていると、母が暢気に言った。
「憧れの先輩が東京の大学、内定したんでしょ?わざわざ家を出て神戸に引っ越したぐらいやもの、もちろん東京にも追いかけて行くんでしょ~?」

何でそこまで知ってるん!?
私は、両親と兄を不信感いっぱいに見つめた。
兄は無言で肩をすくめて見せた。

「あの、普通に今の高校を卒業してから、東京の大学を受験すればいいんじゃないかと……」

恐る恐るそう言ってみたが、父は頑として譲らなかった。
「わざわざ受験しなくても、編入させてくれるというのに、何の問題がある?」

……いや、何でそう、私を東京に行かせたいんですか?
納得できない。

「なんで?」

兄が、ため息をついた。
「……お父さん、ちゃんと言ったほうが由未も納得すると思いますよ。」

父は兄の言葉に頷いたけれど
「お前に任せる。由未、もう話は通ってるから。私の顔をつぶすようなことはしないでくれよ。」
と、逃げてしまった。

昔は頭ごなしに言うことを聞かせていたのに、思春期頃から私に強く命令しなくなった父。
高校から家を出てしまって、これからもどんどん距離が広がってしまうのだろうか。

淋しく感じたが、昔から今も変わらず私に甘い兄に肩を優しく抱かれると、少し心が落ち着いた。
「お兄ちゃん、なんで?」

「以前も言うた通りや。それぞれに思惑があるけど、由未は気にせんと、和也くんを追いかけたらいい。」

「気にするもん。私の進路やのに、勝手に変えられて。」

拗ねる私に、兄はうんうんと、頷いてくれた。

「そうやな。じゃあ思惑の1つを言おうか。……天花寺(てんげいじ)の恭匡(やすまさ)さんのことが心配で、なあ。」

恭(きょう)兄さま?

思ってもみなかったお名前が出てきて、私は面食らった。