私達の席は、1階最後列で、舞台ははるか遠かった。
慌ててオペラグラスを借りて、やっと顔がわかる。
え!?
静稀さん、めっちゃかっこいいんですけど……。
まるで少女漫画の王子様のように、美貌の男役に化けてる!
すごい!
周囲のすすり泣きに釣られて、私もぐずぐず泣いてしまうぐらい、私は感動していた。
幕間(まくあい)に、私達は3人とも、呆けてしまった。

「静稀さん、めちゃめちゃ綺麗やったねえ。」
サンドイッチの味がわからないぐらいぐらい、私は熱に浮かされていた。

「……すごかったな……あの子の周りが、マジで光って見えたで。蝶の鱗粉か、キノコの胞子みたいに、キラキラパウダーを撒き散らしてたなあ。」

兄はそう感嘆してから、セルジュを脅していた。
「セルジュ、苦労するで、これから。あの子は、すぐスポンサーもタニマチもつくわ。」

「義人もそう思ったかい?僕も、ここまでとは思わなかったよ。」
セルジュは、ほうっとため息をついた。

2日後、和也先輩にとって、最後のインターハイが開幕した。
去年は和也先輩のワンマンチームと言われた我が校だが、今年は全体的に実力の底上げに成功していると思う。
結果的には、和也先輩が靱帯断裂で戦線離脱したことで、独り独りの責任感と自覚を促せたのかもしれない。
シード校には入れなかったが、和也先輩のくじ運は、試合数の少ない組み合わせをゲットできた。
ゴールデンウィーク中に1回、その一週間後に1回勝てば、もう準々決勝だ!

でも、2戦めには、私は応援に行けなかった。
前々日、天花寺(てんげいじ)のご当主が亡くなられた、と実家から連絡が来たからだ。
お葬式は、築地本願寺で行われた。
父と兄は、すぐに東京に駆け付け、お手伝いに当たったらしい。

私は土曜日に実家に帰り、葬儀の朝に母と共に東京へと向かった。
小雨の降る中、築地本願寺の不思議な造形の建物は、喪服の人でいっぱいだった。
立派な祭壇に何人ものお坊さんが並び、広い静かな建物に読経が響き始める。

一般会葬者の後ろのほうに座った私からは、喪主の恭兄さまのお顔は全然見えなかった。
……どんなに遠目でも、百合子姫とおばさまはわかるけど。

しばらくすると、お焼香が始まる。
恭兄さまから順番でお焼香に立つ。
会場で椅子に着席している参列者だけでも500人を超える大人数なので、焼香台もずらりと並ぶ。

式場の係員さんの案内で、私も最後のほうにお焼香をさせていただいた。
……お焼香の前後に、喪主席に礼をするのだが、その時にやっと恭兄さまを見ることができた。

9年ぶりの恭兄さまは、すっかり落ち着いた大人の男性だった。