ヒロインになれない!

「……あの、2人は、知り合い、じゃないよね?なんか、2人ともいつもと違うような気がするねんけど……。」
恐る恐る聞いてみると、2人は顔を見合わせた。

「残念ながら初対面や。こんな美人やったらもっと早く出会いたかったな。」
兄は、また、作った笑顔を顔に貼り付けた。

あおいちゃんは、顔をしかめて言った。
「いつ逢(お)ーとっても、お兄さんとはどうにもならんと思いますわ。考え方とか違いすぎるし。」
あおいちゃんは再び兄に向き合った。
「佐々木、猿やけど、いいやつですよ。」

兄は頷いて、とんでもないことを言った。
「ああ。わかるよ。でも、発情期の猿の巣に妹を行かせるのは抵抗を感じてね。」

「お兄ちゃん!!」
私は慌てて、兄の言葉を止めようと叫んだ。

でも兄は膝を折り、私の目線に顔を近づけて、言った。
「由未、ちゃんと恋をしぃや。状況に流されてても何もならんで。」

そして、あおいちゃんに対して
「そういうわけで、あおいちゃん、よろしくね。」
と、言い残して帰っていった。

あおいちゃんはため息をついた。
「……釘刺された。お兄さん、由未ちゃんのこと、めっちゃ大事にしとーね。」

「なんか、ごめんね。愛想悪かったよね。いつもこんなんちゃうのに。」
しょんぼりしてそう言うと、あおいちゃんは首を振った。

「佐々木の猿が悪いねん。もっとしっかりせえっちゅうねんなあ。」
……私は曖昧に笑うしかなかった。

兄の言う通り、私自身が自発的に和也先輩に近づこうとする前に、いつもあおいちゃんがお膳立てしてくれてる。
もちろんあおいちゃんには感謝いっぱいだけど、私の恋心は何も育ってないのかもしれない。
兄に言われて、はじめてそのことに気づいた。

夜、キャンプファイヤーに火が灯された。
バトン部や応援団のデモンストレーションがあり、軽音部が演奏し、コーラス部がミュージカルショーを披露する。

定番のフォークダンスも流れたが、私は和也先輩の姿を探し出すことができなかった。
「ま、明日があるって。遣り手婆は行かんから、がんばり~。健闘を祈る!」
あおいちゃんに励まされ、私は早々に緊張する胸を押さえて頷いた。

翌朝9時に、和也先輩からの着信を受けた。
最寄り駅の確認と、これから自宅を出る旨を伝えられ、私もバタバタと身支度を調える。
「マサコさんが早く来て、ランチとおやつを作って下さるらしいよ。夕食も準備してもらうかい?」
セルジュにそう聞かれたけど、首を振った。

「さすがにそこまでは、ない!じゃ、行ってきます!」

坂道を転がるように走って、私は駅へと向かった。