ヒロインになれない!

私の中に、ふるるっと震えが走った。

和也先輩なりに私を心配してくれてたなんて、知らなかった。
私は泣きそうになるのを我慢して、笑顔を作った。

「大丈夫です。毎日ちゃんと勉強してますから、テスト前に慌てなくても2位をキープできると思います。明日、学校に来ればいいですか?」

……ちなみに1位はぶっちぎってあおいちゃんだ……教科書を読み返すこともなく、1学期の中間も期末も全教科満点。
もし、友達になる順番が、知織ちゃんとあおいちゃんと逆だったら、私は、正直やってられない!と、勉強を放棄したかもしれない。
知織ちゃんのおかげで、勉強する楽しさと手ごたえを掴んだ私は、今なお予習法を続けている。

「学校はあかんよ。テスト一週間前は部室封鎖中。佐々木の家は?」
あおいちゃんがそう言ってくれた。
いつもながら、ナイスアシスト!
感謝の目であおいちゃんを見つめる。

しかし、すっかり忘れていたが、私の隣には兄がいた。
「……由未の下宿先はどうかな?サッカーコートとまではいかなくても、教室3つ分ぐらいの芝生敷の庭があるよ。」
外面(そとづら)の良さを張り巡らした声と表情で、兄がそう言った。

「はじめまして、由未の兄です。妹がいつもお世話になっています。」
続けて、2人にそう挨拶する兄。

和也先輩は、どうも……と、頭を下げ、あおいちゃんは兄を真正面に見据えてからおもむろに口を開いた。
「由未ちゃんからお噂はかねがね聞いてます。吉川あおいです。」

……二人の間に不穏なものを感じた……気がした。

「お美しいですね。」
兄が微笑んであおいちゃんにそう言うと、あおいちゃんも
「お兄さんこそ、かっこいいですよ。」
と、兄を褒めた。

……言葉の意味とかけ離れた2人の間の空気の冷たさに違和感を覚えたが、和也先輩は「教室3つ分の芝生」が気になってしょうがなかったらしい。

「あ、あの。俺、ボール持ってお邪魔しても、迷惑じゃないですか?」
と、兄の誘いに食いついた。

あおいちゃんが小さく舌打ちした。

兄は満面の笑みで頷いた。
「歓迎しますよ。……まあ、俺は今晩帰るけど、家主は親友なので、ちゃんと伝えておくから。」
「ありがとうございます!」
和也先輩は喜色満面で、兄に頭を下げてから
「じゃ、明日の朝電話するし!」
と、私に言って、走って去ってった。

「……元気やな~……」
兄が揶揄するように、そうつぶやいた。

「身体能力、猿ですから。」
あおいちゃんがそう言うと、兄は鼻で笑った。