ヒロインになれない!

「何や、お前、地元の中学生やと思っとったわ。」
「……京都からお手伝いにつれて行かれたんです。でも、試合も応援してたんですよ。」
「へえ!お前、サッカー好き?マネージャーしよる?」
「……う……さっきぃ、試験落ちてきました……」

私がしょんぼりそう言うと、和也くんは、ぶはっと吹き出して、お腹をかかえて笑った。
明るい、からっとした笑い声に、私は見とれ、聞き惚れた。

「惜しかったな。先にわかってたら推薦して加点したったのに。」

「そんなシステムあるん!えらそーに!」
吉川さんが突っ込むと、和也くんは胸を張った。
「サッカー部は人気やからな。……小門先輩が決めてん。」

……さっきも出てきた……小門せんぱい?……吉川さんの知り合い?

「しょーもな。試験って筆記?そんなんで決めとー?頼之(よりゆき)さんらしいわ。あ、由未ちゃんが置いてきぼりになっとー。ごめんね、えーと、去年のサッカー部キャプテンが小門頼之さん。」

「あ……去年、上手かった人……」
確か兄がそう言ってたな、と思い出す。

「わかっとーやん!小門先輩のおかげでインターハイは県代表になれたんや。」
和也くんが、喜々としてそう言った。
どうやら、和也くんにとっては、憧れの先輩だったらしい。

吉川さんにとっては?
ちらっと彼女のほうを見る。
……やっぱり美人。
つい、へらっと笑うと、吉川さんはにっこりと笑いかけてから、和也くんにこう言ってくれた。

「決めた。由未ちゃんを参謀助手にする。いいやろ?由未ちゃん、一緒に来(こ)ーへん?」

私は、心の中でガッツポーズをした。
よくわからないけれど、サッカー部のポストだけじゃなく、和也くんと話せるようになり、吉川さんという女友達までゲットできてしまったらしい。

私の高校生活は前途洋々、のように思えた。

学校からセルジュん家(ち)までは、小一時間かかる。
神戸以東は三社の鉄道が東西を横断しているのだが、セルジュん家は山側、学校はどちらかと言えば海側。
三社は並列に走っているので、接続も乗り換えもしにくい。

学校の最寄り駅の電車に乗ると、駅からセルジュん家まで距離にして1.8km、平地なら問題ないが、途中からは急斜面を上がっていかなければいけない。
電動自転車も太刀打ちできない坂道は、お屋敷街のため、高い塀や石垣の上の垣根ばかりで、街灯も少ない。
……結局、車での送迎がスタンダードな街、ということだろう。

セルジュ自身は、ほぼタクシーを使っている。
私にもタクシーを使うように言われたが、毎日は抵抗があるので、夕方17時を過ぎたらタクシーを使うことにした。