ヒロインになれない!

車に乗ってからも涙目の私に、保健室の先生は同情したのだろう、声をひそめて私に耳打ちした。
「開会式の翌日が佐々木和也くんの1回戦よ。ちょっと遠いけどがんばって見にくるといいわ。」

私は保健室の先生の手を、ぎゅっと握った。


その夜遅くに帰宅した兄を待ちうけて、聞いてみた。
「お兄ちゃん、保健室の先生と、オトモダチ?」

兄は、にやりと笑った。
「夏子さんから聞いたよ。佐々木和也くん、だって?」

早っ!
てか、夏子さんって!!!
話が話なので、両親に聞かせたくない。

私は兄を部屋へ引っ張り込んだ。
「夏子さん、って呼んでるの?」

「ああ。でも別に俺だけじゃないで。彼女の愛称みたいなもんだ。」
ことさらに兄はそう言った。

「……夏子さんって呼ぶ生徒は他にもいるとしても、夏休みに夏子さんと連絡を取り合う生徒はいいひんのちゃう?」
私は何とも言えない気分で兄に詰問した。

「ま、それ以上言うな。オトモダチ、でいいやん。由未のこと、気に入ったみたいやぞ。」

……私も、気に入ったよ。
とても素敵な人だと思った。
でも、兄と……オトモダチ、か。
ん?夏子さんっていくつ?
兄との年齢差に悶々としてると

「それはそうと?佐々木和也くん?」
と、兄が髪を掻き揚げながら、聞いてきた。

……よく見ると、いつも兄の付けている整髪料が効いていない……どこかでシャワーを浴びてきた?と想像させる仕草に、私は赤くなった。

だが、このタイミングだと、和也くんの名前を聞いて照れたように見えただろう。

「無骨なイケメン。チャラくはない。サッカー馬鹿。……そんな感じ?」

なんか、小馬鹿にされてる気がする。

「……優しかったよ。」
私は、テンションがかなり下がっていることを自覚していた。

この兄の眼鏡に適う人とは、残念ながら思えない。
口惜しいけど、格が違う。
いじけそうになった私の両肩に兄はそっと手を置いた。

「初恋の相手としては、いいんじゃないか?かっこいいスポーツマン(笑)。とりあえず、気の済むまで想ってみろ。ただし、相手にされなくても、無茶はするなよ。」
やはり微妙に小馬鹿にされてるような気はしたけど、兄の言葉は、私の恋の走り出すゴーサインとなった。

3日後。
JRで遠征を計画していたのだが、兄が車を出してくれた。
……免許を取って約一ヶ月なのでちょっと怖い気もしたけど、そこは何でもそつなくこなす兄。
快適なドライブで、高校総体(インターハイ)のサッカースタジアムに到着した。

真っ直ぐスタンドに向かおうとする私とは反対に、兄は本部役員席に近づいた。