運動公園は綺麗に整備され、そこかしこに花が咲いていた。
さすがに暑いので日陰を求めてうろうろしていると、タチアオイの植わった一角があった。
綺麗~~~!

満開のタチアオイのすぐ下で、私はお弁当を開けた。
いかにも体育教員が好きそうな揚げ物満載の冷めたお弁当はお世辞にも美味しいとは言えなかったが、まあ、真夏なので仕方ないか。

半分ぐらい食べた頃、賑やかな集団が近づいてきた。

「1年のくせに調子こいとんな!」
「先輩に華もたせる気ぃはないんか!おら!」
「お前が目立ってどうするねん!」
などなど、ドスの効いた罵声に交じって、ドサッとかボスッとか、変な擬音が聞こえる。

垣根からそっと顔を出すと、4人の青いジャージ軍団に、突き飛ばされ、蹴られている、やはり青いユニフォームの男子が1人。

ジャージの1人がおもむろにしゃがむと、ぐったりしてるユニフォームの子の胸倉をつかんで顔を上げさせて……殴った!

「やっ!!」
思わず目を閉じてそう声を出してしまった。

私に気づいたジャージのうち、柄の悪そうな人がこっちに来る。
「……なんや、女子か。」

私は息を飲んで、その男を見上げた。

「おい、お前、ちくるなよ!ちくったら……」
目付の悪いジャージ男が私にずいっと近づいてきて、私の手からお弁当を取り上げて、地面に投げ捨てた。

「……殺すぞ。」
そう言い置いて、ジャージ男はわざわざ散乱したお弁当の中身を踏みにじって、仲間の元へと戻った。

私は何もできず、呆然と見ていた。
……これが知織ちゃんなら、憤然と立ち向かった……かもしれない。
でも普通の女子には、無理です。

固まってる私のほうに、さっき殴られてたユニフォームの男子が近づいてきた。

「大丈夫か?……悪かったな、とばっちり喰らわせて。」
彼はぐしゃぐしゃになったお弁当箱の容器に、土まみれの食べ物の残骸を拾った。
「これじゃ食えんな。」
そう言いながら、私にお弁当箱を突き出す。

……あ……これ……来たかも……。
私の心臓が早鐘のように鳴りだす。

彼の殴られた右頬は赤みを帯びていたが、そんなものはもやは関係なかった。
私は彼に恋をした……ような気がした。

冷静に考えれば、胸のドキドキは一連の出来事に対するものだったような気がする。
この時点では、恋する要素なんてないんやから。

強いて言えば、顔?

確かに彼の顔は、普通にイケメンと言えそうなものだった。