中学3年生になった。

知織ちゃんは、半年以上かけて周囲を説得し、高校から東京の姉妹校へ進学することを認めさせ
た。
東京には知織ちゃんの母方のおじいちゃんとおばあちゃんが住んでいるので、そこに住まわせてもらうことになるようだ。

高校3年生になった兄は、他大学への受験を表明し、一応受験勉強を始めた……らしい。
相変わらず遊び歩いているようにしか見えないが。
彩乃さんが真面目に予備校に通って勉強しているのとえらい違いだ。
……明確な意志のないままに、釣られて受験勉強を始めたセルジュも変な人だけど。

私だけが、のほほーんと生きてたが、知織ちゃんのおかげで成績はずっと学年5位前後におさまっている。
そのせいか、知織ちゃんとセットで、やたら教員に可愛がられるようになった。
つまり、しちめんどくさい役職や仕事を頼まれることが増えた。

この日も、私は全く興味のないボランティアに駆り出されていた。
高校総体(インターハイ)の補助員のための下準備、だそうだ。

そもそも「高校」総体なのだから、中学生の私には関係ない。
しかも、別に京都で開催される大会、でもない。
たまたま生徒会でお世話になっている教員が、たまたま体育教師で、たまたま政治力に長(た)けていたために、たまたま大会役員を務めていた。

で、彼にとって使いやすい生徒だった知織ちゃんに手伝いを頼んでいたところ、急に一条さんがオフになったらしい。
根がまじめな知織ちゃんは、一条さんとのおデートを断ろうとしてたので、私が代役を申し出た。

7月末の朝8時半、学校で体育教員の車に保健室の先生と共に乗せられて、出発。
今年の高校総体開催地は隣の隣の隣の……まあ、少し時間はかかるが楽勝で日帰りできる県だ。
体育教員は、保健室の先生に気があるらしく、やたら緊張して饒舌になっていた。

……確かに保健室の先生は、さばさばしててかっこいい系の美人だ。
今日も、体育教員の秋波をクールに受け流していた。
私はほとんど保健室に行くことはないのだが、兄はよくお世話になっているらしい。
夜遊びの寝不足を保健室で解消させてもらっているのか、この美人が目的なのかは知らないが。

10時半に、県庁の別館にある準備室に到着すると、必要なものを積み込み、いくつかの会場である体育館と運動公園を回った。

各競技ごとの集計表や賞状、表彰式のための資料を運ぶらしい。

保健室の先生は、競技期間中の2日間をサッカー会場に詰めるということで、最後にサッカー場のある公園で降りた。

控室で昼食のお弁当とお水をもらったが、煙草を吸っている役員がいたので、私は教員に許可をもらって建物の外に出た。