ヒロインになれない!

お兄ちゃんと百合子姫って、そういう関係だったの!?

ガタッ……と音を立てて尻餅をついた私を見て、知織ちゃんが助け起こそうと駆け寄ってくる。
「由未ちゃん、大丈夫?あ……」

知織ちゃんの声と同時に、兄が障子を開けた。
兄は私たちを見て、驚いた。

「お兄ちゃん……百合子姫まで……ひどい……」
何が、どう、ひどいんだか、自分でもよくわからないまま、私はそう詰(なじ)っていた。

青ざめた百合子姫は、唇を噛んで、私達の横を走って通り抜けて店を飛び出した。

兄は百合子姫を見もせず、額を押さえてため息をついてから、私達に言った。
「……知織ちゃん、伝票持ってこっちに移っておいで。由未、立てるか?」

お店の人にお願いして、兄は座敷を片付けてもらい、改めて私たちにデザートを注文してくれた。

抹茶味のあんみつを食べながら、兄に詰問する。
「いつから?」

兄は肩をすくめた。
「百合子を退散させてくれて、助かったって思ってるけど、そういう質問には答えない。」

「じゃ、なんで?他に遊び相手ならいっぱいるやろ?」

兄は苦々しく笑って言った。
「かたき討ち。」

は!?

ぽかーんとしてる私の代わりに、知織ちゃんが口を開いた。
「小さい頃、由未ちゃんは百合子さんにひどいことを言われたそうですが、その仇討(あだうち)ということですか?」

兄は、綺麗な顔を歪めた。
「言葉だけじゃない。百合子は、由未に手を上げた。あの時の口惜しさは今も忘れられへん。」

「そんな、江戸の敵を長崎で討っても、由未ちゃんは喜ばないし、お兄さんご自身も晴れないんじゃないですか?」

知織ちゃんのこういうところ、本当にすごいと思う。
誰に対しても躊躇なく正論を叩きつけるのだから。

兄は絶句してから、楽しそうに笑った。
「知織ちゃんは本当にしっかりしてるね。知織ちゃんとならいい関係をキープできるんやろうけどな。俺と、どう?」

こらーっ!!!
「お兄ちゃん!手当たり次第、口説かないでよ!もう!恥ずかしいっ!」

激昂する私とは対照的に、知織ちゃんは兄を黙ってじっと見た。
「……正直に告白します。私、お兄さんのことは、素敵だな、と憧れてました。昨日までの私なら、それもありかな、と考えたかもしれません。でも、さっき、好きな人ができたから、もう無理みたいです。」

し、知織ちゃん……そうだったの?
それもありかな、って?マジで?

百合子姫も知織ちゃんも、私よりずっと大人なんだ。