宿題以外の復習は一切しないで、知織ちゃんは完璧な予習に専念した。
英語も数学も、自分で調べて、自分の力で理解するのだそうだ。

知織ちゃんにとって、授業時間は答え合わせ、らしい。
……私には難しいような気がしたが、知織ちゃんと一緒なら、できた。
だって、理解できないことは知織ちゃんが説明してくれるのだから。

最初のうちは、私は二度授業を受けているようなものだった。
次第に、知織ちゃんの、調べ方を身につけ、自分でも理解できるようになってきたが。

テスト前は、数学や科学は反復練習、暗記物は重要ワードの書き出しのみ。
それで知織ちゃんは毎回トップ、私は一足飛びに順位を上げていった。

そして気づけば、私達は、孤立していた。
……ま、いっか。
2人だし。

兄もそうだが、名門大学入学を保証されている我が校は、一旦入ってしまえば、かなり自由に遊べる環境であることは間違いない。
もちろんクラブ活動に専念する者も多いが、お家の経済状態が裕福な子が多いせいか遊びも派手だ。
中学生でパーマをあてる者も入れば、お化粧をして夜遊びにいそしむ子もいた。

そんな中、図書館でずっと勉強していた私達は、かなり異質なことは間違いなかった。

私自身は、兄のおかげで女子からは何の被害も受けなかった……男子には嫌味を言われることもあったが、まあ、実害はなかった。

でも知織ちゃんは、私と仲良くなったことで、兄達3人とも顔見知りとなり、さらに僻まれる立場になってしまった。
私がいない隙に、嫌がらせされることがよくあったらしい。

でも、知織ちゃんは強い子だった。
自分には何の非もない、と、常に堂々と振る舞い、くじけなかった。

もちろん私達だって、勉強しかしてないわけではない。
知織ちゃんと、たぶん人並みに、いっぱい遊んだ。
深く付き合ってみると、知織ちゃんは、読書やクラシック音楽にはものすごく詳しいけれども、漫画やテレビ、ポップス、アイドルといった流行(はやり)には全然興味がないらしい。
私もそこまで詳しいわけではないが、普通にテレビは見るので、知織ちゃんに指南した。
父の仕事の関係で、舞台やコンサートのチケットが手に入ると、知織ちゃんを誘って一緒に行った。
知織ちゃんは、歌舞伎や文楽が特にお気に入りだったが、私はアイドルのコンサートやミュージカルが楽しみになった。

中学二年生の夏休み。
私達は、いつものように2人で、J-POPバンドのコンサートに行く予定だった。
その日、知織ちゃんは運命の出会いをした。
……14才、遅い初恋だった。