ヒロインになれない!

2人のペースの早さに圧倒されて、私は七輪で焼き焼き係に終始した。
みるみるうちにペットボトルは空いていく。
最後に残った米粒を振り出そうとしてる恭兄さま。
めっちゃ執着してはる。

「で、これ、何ですか?」
「これは〜、亡くなった大先生の奥さんの手作りの〜、ど、ぶ、ろ、く。」
碧生くんが、愉快そうにそう言った。
「手作りなんですか!」
「すごいでしょ〜。」
「そうなんだよ!だから、甘酒と一緒!」
クスクス笑い合いながら、2人はそう言った。

いや、絶対、酔っ払ってますよね?
ご機嫌さんな2人の話から推察すると、お正月の楽しいお舞台のあと、そのまま師匠の家で宴会になるのが恒例らしい。
大人はお酒でへべれけになり、子供には甘酒を作ってくださっていたんだそうだ。
この甘酒が自然発酵し過ぎたのか、はたまた確信犯なのかはわからないが、いつの間にか、正月だけは子供もどぶろくを飲んでいい、という暗黙のルールができたらしい。
いろんな法律を無視した習慣なので、大先生の死後は廃れてしまったらしいが、奥様は今もたまに甘酒と称してどぶろくを仕込まれるらしい。
恭兄さまにとっては、とても懐かしいうれしいもののようだ。

「佐藤くん、ありがとう!酒屋の濁り酒とは、やっぱり違うんだよね!この、自然発酵の香りと味が、絶妙なんだよね!あの屋敷に住み着いた菌の作用なんだろうね!」

たぶん、恭兄さまのことやから、今までいろんな酒蔵から濁り酒を取り寄せて試してみた上での感想なのだろう。

「いや、兄弟子なんだから碧生と呼んでくださいよ!兄さん!農家のどぶろくに近いってゆーかー。」

「君に兄さんと呼ばれる筋合いはない!由未ちゃん、お揚げさん、しょうがいっぱいつけてね!」
「由未ー。俺もー。」
「碧生くん!!呼び捨ては感心しない!」
「俺、帰国子女だもーん。由未ー。やすー。」

やす、って、恭兄さまの「恭匡(やすまさ)」からの、やす?
さすがにそれは……と、ハラハラしてると、恭兄さまは、また笑い出した。
やっぱり笑い上戸なのかな。

「兄弟子に『やす』はないだろう?ひどいな。」
「やすさん、って言いにくいもん。」 

2人は、何だかじゃれあっているかのように、あーだこーだ言い合っていた。


「やすまっさんのー、スカG、俺も欲しいー!」
碧生くんも車が好きらしく、いきなりの絶叫のあと、2人は、車談義で盛り上がっていた。
「買い替える時、下取り価格で譲ってよ。」
「いや、買い替えないから!ずぅっと乗るから!」