ヒロインになれない!

「あの、恭兄さまの昔の舞台の映像を持ってきてんて。私もちょっと見たいかな〜、なんて、思うねんけど……」
「見たけりゃ、家で舞ったげるから。」

「マジで!?ラッキー!」
……恭兄さまが私を宥めるために言った言葉に、碧生くんが派手なアクションで喜んだ。

「……君は関係ないよ。」
恭兄さまが、呆れた顔でそう言ったけど、碧生くんは強かった。

「師匠から天花寺さんへの預かりものも持参してます。昔の舞台映像を見ながらご相伴に預かるよう仰せつかりました。よろしくお願いします。」
碧生くんの言葉に、恭兄さまの顔が、目に見えて緩んだ。

「……そう。じゃあ、来たまえ。」
明らかに恭兄さまは機嫌をよくしていた。

鼻歌でも出てきそうな顔で、いつものスーパーへ寄って、一夜干しやお揚げさんなどを籠に入れてく。

「あの、夕食のおかずは?」
私がそう聞いても、
「お茶漬けでいいんじゃない?」
と、適当な返事。
「水菜のお漬け物でお茶漬け?」
後ろから、碧生(あおい)くんがまたそう言うものだから、私はすっかり水菜でお茶漬けモードになった。

帰宅後、恭兄さまはいそいそと七厘に火をおこした。
炭火がいこると、網をじっくり炙りながら、恭兄さまは碧生くんを催促した。
碧生くんは、ニコニコ笑いながら大きな鞄から2リットルのペットボトルを出した。
白濁した白い液体。

「マッコリ?」
「はあ!?」

碧生くんが白い目で私を見た。
恭兄さまは碧生くんからペットボトルを受け取ると、頬ずりでもしそうなぐらいうっとりと見つめた。
おもむろに出してきたのは、釉薬のかかってない素焼きの酒器。

徳利、二合瓶、杯、お猪口、ぐい飲み、蕎麦猪口のような大きいものもあった。
恭兄さまが好みそうな繊細な貴族趣味の器じゃないことに驚く。
恭兄さまは、徳利にペットボトルの中の液体を移す。

「お注ぎしますよ。」
碧生くんが恭兄さまから徳利を取り上げると、恭兄さまはぐい飲みを差し出した。
口をつけて、幸せそうな顔で目を閉じる恭兄さま。

「美味しいよ。やっぱり全然違うね。佐藤くんも由未ちゃんも飲んでみて。」
碧生くんは私に杯を渡して注いでくれた。
自分はお猪口。
白濁した液にはうっすら米粒もまじってる?
口をつけてみて驚いた。
甘いとも辛いともいえない、心地よい爽やかな酸味の効いた柔らかい、濁り酒?

「美味しいけど……」
これまで私に対して、「未成年だから」と、絶対にお酒を勧めなかった恭兄さまが、飲ませた?
解禁?
碧生くんを見ると、平然と、恭兄さまとどんどん酌み交わしてる。
えーと、これは、やっぱり、お酒じゃない?ってことでいいですか?