ヒロインになれない!

妬いてる、っていうより、怒ってる!

「……ごめんなさい。」
自分の落ち度はよくわからないけど、とりあえず、恭兄さまに怒られてるのはつらいので、私は涙目で謝った。

「反省のない謝罪に意味あるの?」
辛辣な恭兄さま。
私は、それ以上何も言えなくなってしまった。
下を向いて、しょんぼりしてた。


歩けるぐらい近い距離なので、タクシーはすぐに家に到着した。
恭兄さまは、鍵を開けて家に入ると、私の手を引っ張って、洗面所に連れて行った。
蛇口を捻り、勢いよく水を出すと、自分の左手ごと私の右手を水流にあてた。

「袖が濡れる!着物が!」
恭兄さまは、私の訴えを全く意に介さず、石けんまでなすり付けて思いっきりしつこく洗われてしまった。
私の袖も、恭兄さまの袖も、じゃばじゃば濡れて色が濃くなっていく。

「シミになるぅ……」
せっかくの着物が台無しになってしまう。
私の目から涙がボロボロとこぼれる。
恭兄さまは、水を止めると、タオルでゴシゴシと強くこするように拭いた。

……痛い。
少し赤くなった私の手を取ったまま、恭兄さまは寝室へと引っ張った。
まだ新しいセミダブルのベッドに押し倒されて、顔を両手で掴まれる。
恭兄さまの顔が近づいてくる……けど、目がギラギラしててものすごく怖い。

「この顔に、刃物で傷を付けようか。それとも、少し焼こうか。」

「!」

「二目(ふため)と見られない顔にしてしまいたい。」

……マジで怖い。
恭兄さまの狂気に、私は泣くことも忘れて目を見開いていた。

「僕以外、誰にもあなたを見せたくない。ずっと座敷牢に閉じ込めていようか。」

座敷牢……。

「……能舞台だけじゃなく、座敷牢まであったんですか?」
聞き慣れない言葉に、ついそう聞いてしまった。

「ああ。京都の家には。ずっと物置になってたけど。」
……知らんかった。

「じゃ、この家にも作りましょうか。当分、私、入ってます……恭兄さまのお怒りが溶けるまで。」
私がそう言うと、恭兄さまは私に体重をかけないように倒れ込み、ため息をついた。

「……そういう問題じゃないから。」
うーん……。

「あの、たぶん、恭兄さまの気のせいやと思います。私、もてませんよ?告(こく)られたこともないし。知織ちゃんとかあおいちゃんとか静稀さんならともかく、私じゃ……」

「由未。前にもそんなこと言ってたけど、あなたは、自分の価値を他人との比較で計りたがるんだね。どうして?」

……恭兄さまの口調から苛立ちや狂気が薄らいだけど、真面目に問い詰められて、それはそれで怖かった。