今夜は、プロの能楽師によるお舞台ではなくて、謡いや仕舞いを習ってる、いわば素人の発表会。
ロビーは、華やかに着飾ったご家族、出番の終わった演者、招待客があふれかえる社交の場となっていた。
恭兄さまのお付き合いのあるかたがたは年輩のかたばかりなので、最後のほうの出番らしい。
客席の前のほうの空席に座って、素人発表会を楽しんだ。
終演後、演者の幾人かにご挨拶をして帰るつもりが、パーティーに誘われてしまった。
小紋と紬なので、場にふさわしくないと恭兄さまは辞退したけれど、目上のかたの誘いをお断りもできず同行した。
最近でこそ多少はお能を見るようになったけれど、まだまだ知識も興味も少ない私は積極的に会話に参加もできず、ただ恭兄さまの横でニコニコと微笑んでいた。
「……水菜のお漬け物でお茶漬け食べたい、って顔してる。」
少し疲れてきた頃、突然背後からそう言われて、私は驚いて振り返った。
……何となく見覚えのあるような……ないような……若い男性だった。
誰だっけ。
私は、彼の顔をどこで見たのか思い出そうとしたけれど
「水菜、好きなの?寝言で言ってたけど。」
と、続けて言われて、めっちゃ焦った。
耳聡い恭兄さまが、おじさま達と会話しながらも、一瞬だけものすごく鋭い目でこっちを見た気がした。
……そりゃまあ、「寝言」は、気になるよな。
「あの、どなたかとお間違えになっておられませんか?」
笑顔をキープしながら私はそう言った。
彼は、不本意そうに言った。
「竹原さんでしょ?文3フラ語12組の。俺、同じクラスなんだけど。」
「あ……失礼しました。」
改めてまじまじと彼を見る。
今風というか、ややチャラく見える彼は私と同じクラスの人らしい。
「佐藤です。」
彼はそう名乗り、私に右手を差し出した。
握手?
慣れない習慣に、つい、じーっとその手を見てると、痺れを切らしたらしく、佐藤くんは私の手を半ば強引に掴んだ。
「能楽、興味あるならやらない?」
……サークル勧誘?
いや、あの、興味ないです!と、この場で言うのは失礼過ぎるので、私は思わず恭兄さまに助けを求める。
恭兄さまは、現在進行中の会話を中断することなく、私と佐藤くんをも会話に組み入れた。
「佐藤くんの『紅葉狩』も素晴らしかったですね。」
「……どうも。まだ始めたばっかりなんで、そう言ってもらえると励みになります。」
「ほう、いつ頃から始められましたか?」
恭兄さまが話してらした、演者のおじさまが佐藤くんにそう尋ねる。
ロビーは、華やかに着飾ったご家族、出番の終わった演者、招待客があふれかえる社交の場となっていた。
恭兄さまのお付き合いのあるかたがたは年輩のかたばかりなので、最後のほうの出番らしい。
客席の前のほうの空席に座って、素人発表会を楽しんだ。
終演後、演者の幾人かにご挨拶をして帰るつもりが、パーティーに誘われてしまった。
小紋と紬なので、場にふさわしくないと恭兄さまは辞退したけれど、目上のかたの誘いをお断りもできず同行した。
最近でこそ多少はお能を見るようになったけれど、まだまだ知識も興味も少ない私は積極的に会話に参加もできず、ただ恭兄さまの横でニコニコと微笑んでいた。
「……水菜のお漬け物でお茶漬け食べたい、って顔してる。」
少し疲れてきた頃、突然背後からそう言われて、私は驚いて振り返った。
……何となく見覚えのあるような……ないような……若い男性だった。
誰だっけ。
私は、彼の顔をどこで見たのか思い出そうとしたけれど
「水菜、好きなの?寝言で言ってたけど。」
と、続けて言われて、めっちゃ焦った。
耳聡い恭兄さまが、おじさま達と会話しながらも、一瞬だけものすごく鋭い目でこっちを見た気がした。
……そりゃまあ、「寝言」は、気になるよな。
「あの、どなたかとお間違えになっておられませんか?」
笑顔をキープしながら私はそう言った。
彼は、不本意そうに言った。
「竹原さんでしょ?文3フラ語12組の。俺、同じクラスなんだけど。」
「あ……失礼しました。」
改めてまじまじと彼を見る。
今風というか、ややチャラく見える彼は私と同じクラスの人らしい。
「佐藤です。」
彼はそう名乗り、私に右手を差し出した。
握手?
慣れない習慣に、つい、じーっとその手を見てると、痺れを切らしたらしく、佐藤くんは私の手を半ば強引に掴んだ。
「能楽、興味あるならやらない?」
……サークル勧誘?
いや、あの、興味ないです!と、この場で言うのは失礼過ぎるので、私は思わず恭兄さまに助けを求める。
恭兄さまは、現在進行中の会話を中断することなく、私と佐藤くんをも会話に組み入れた。
「佐藤くんの『紅葉狩』も素晴らしかったですね。」
「……どうも。まだ始めたばっかりなんで、そう言ってもらえると励みになります。」
「ほう、いつ頃から始められましたか?」
恭兄さまが話してらした、演者のおじさまが佐藤くんにそう尋ねる。



