……お兄ちゃんの嘘つき……。

小学4年生から塾に通って勉強して、やっと合格した中学校に入学して以来、私は毎日のようにそう思っていた。
今年同じ学園の高校に進学した兄も、やはり、中学からこの学園に通っていた。

兄は、いかにこの学園が自由ですばらしいかを延々と語っていたのだが……鵜呑みにした私が甘かったようだ。
入学式の翌日から、はっきりとわかった。

あの兄は、特別だったのだ。

「竹原さん、って、竹原義人先輩の妹さんよね?クラブはもう決めた?うちに入らない?」

一緒に登校してるわけでもないのに、どこから情報が漏れるのだろう。
教室でも廊下でも食堂でも、私は入学してしばらくの間、先輩方からそんな風に訪問・勧誘された。

声をかけてくるのは、上級生だけじゃない。
教員にも職員にも、食堂のおばちゃんにまで!

中学と高校は、一応校舎が違うが、同じ敷地で施設も共用なので、高校生にも声をかけられた。
兄は、優秀な生徒でありながら、とてもかっこよくて、フレンドリーで、特に女性に(たまには男性にも)ものすごくもてた。

ただ、もてるだけではなく、とにかくマメな兄は……学園の「カサノヴァ」と呼ばれていた。
……兄を僻(ひが)んで悪く言う人達には、学園の「種馬」と呼ばれていたらしいが。

私の意志と反して、兄の情報を求めて人がやってくる日々。
無碍(むげ)にあしらうわけにもいかず、できる範囲で対応しているうちに、気づけば私はクラス内のグルーピングに乗り遅れてしまっていた。

……決して虐められているわけではなかった……と、思う……この時点では。
無視されているわけでもなかった。
ただ、群れに所属し損ねてしまっていた。

ちなみに、隣のクラスには、あの百合子姫がいた!

正直、あまり関わりたくはなかったが、それは百合子姫のほうも同じだったようだ。
廊下ですれ違っても、ほぼ無視されていた。

百合子姫は、今も、兄に片想いしているのだろうか。
……わざわざこの学校を選んで入学してきたのは兄への想いゆえなのだろうか。

もしそうなら、百合子姫、ショックだろうな。
種馬、とか言われちゃう兄の漁色ぶりを目の当たりにして。

百合子姫だけじゃなく、兄に熱を上げる女性みんなに対して、私は同情の念を抱かずにはいられなかった。


ゴールデンウィークが終わってしばらくすると、兄の周囲がさらに賑やかになった。
これまで女性にばかり囲まれていた兄に、男性の親友ができたのだ。
同時に2人も!