ヒロインになれない!

「せやで。言われっぱなしでいつまでも我慢できひんわ。まずは、恭兄さまのこと、次に天花寺のこと、それから霞会とか堂上会とかのお付き合いのこと、全部覚えたい。愚妻にも悪妻にもなりたくないねん。」

私は、少し強めにそう言った。

「ちゃんと教えてくれな、結婚なんかしたくない。」
「……わかった。これからは何でも話すし、相談する。だから……」

恭兄さまが言葉に詰まって、目を潤ませた。
しょうがないなあ。
私は、恭兄さまの頬に、そっと口づけた。

「だから?」

続きを促すと、恭兄さまは眉間に皺を寄せて神妙に言った。
「あなたと、新しい家を一(いち)から作り上げていきたい。何でも1人でしようとするのは確かに僕の悪い癖だと思うから。これからは、あなたに、僕を助けてほしい。」

私は恭兄さまの首に両腕を回して抱きついた。
「上出来。」

恭兄さまの腕が私の背中に回る。
「……お願いしていい?」
恐る恐る恭兄さまが聞いてきた。

「なに?」
「……もう二度と、黙っていなくならないで欲しい。心配で気が狂いそうだから。」

恭兄さまの場合は誇張じゃなさそう。

「わかった。次からは、家出するって宣言してから出るわ。」
まだ少し意地悪な気分でそう言うと、恭兄さまが私を抱きしめる腕に力を込めた。

「いいよ。ついていくから。1人で行かせないから。」

……普通は、引きとめるんじゃないの?
変な人。

「あ、そうや。宝石もう要らんから。もう充分。私に似合わへん豪華すぎるもんばっかりもろても付けられへんわ。」
「……そう……わかった……」

しょんぼりする恭兄さまに、苦笑する。

「大学生が毎日付けててもおかしくないようなのを、入学祝いにくれたら、うれしいかな。」
気を遣ってそう言ってみると、恭兄さまは安堵の表情になった。

「ありがとう。譲歩してくれて。」

……こちらこそ、ありがとうやわ、わざわざ探しに来てくれて。

「ね、何でココにいるってわかったん?」

恭兄さまは、困った顔をした。
「わかんないよ。でも、知織ちゃんにも連絡してないし、義人くんに京都駅で待機してもらっても会えなかったなら、次に可能性の高いのは去年までいたところかな、と。」

「あ、そや。お兄ちゃん!……お父さんとお母さんにも言うたんかなあ。怒られる?私。」

「……怒られることをしでかした自覚はあるんだね?」
恭兄さまが苦笑する。

「うん。ごめんなさい。心配かけて。でもあの時は、逃げたかってん。」
「……全然反省してないよね?」
「うん。」 

恭兄さまは、私の頭を撫でながら言った。
「お父さんとお母さんには内緒にしてもらってるけどね。義人くんにはいっぱい怒られなさい。僕、助けないからね。」

……ぎゃふん。