ヒロインになれない!

「別に冷たくしてるつもりはない。いつもと一緒や。」
まあ、彩乃さんの場合は、兄やセルジュや私が一緒でも、確かに変わらへんか。

いつも優しさをと愛情をそっけなさでコーティングしてクールに振る舞ってはる感じ。
お人柄がにじみ出てるけどね。

「俺のことはもうええやろ。お前はどうするんや?」
「……うん……どうしたらいいと思う?」
「アホか。どうせほんまに別れるつもりはないんやろ。」
「……うん。」
私の目からまた涙がホロリと落ちた。

「だったら、逃げてんと、ちゃんとしゃべってこい。お前が何で消えたかもわかってはらへんらしいぞ。ただのコミュニケーション不足やろ。」

うん。
そうやね。
私は頷いて、コーヒーを飲み干した。

「よし、行こか。今日は高遠くん、昼に組のお稽古に入るらしいから、早よ行ったらんと見る時間ないわ。」
席を立った彩乃さんにくっついて、私はセルジュん家(ち)へと帰った。


「おかえり~!由未ちゃん!彩乃先生!ありがとうございます!」
静稀さんが飛び出してきて、私にしがみつく。
……かわいいなあ、静稀さん。

「ほな、時間ないし、お稽古始めよか。ええか?」
彩乃さんが静稀さんにそう聞くと、静稀さんは私から離れて床に座り、舞扇を置いて頭を下げた。
「お稽古よろしくお願いします。」
彩乃さんもその場に正座して、きちんとお辞儀を返した。
かっこいい……。

ぽーっと見とれてる私をセルジュが手招きする。
「天花寺(てんげいじ)さん、サンルームのカウチで横になってはるよ。昨日の朝から何も食べず、一睡もしてないんじゃないかな。由未が無事でホッとしたら気が抜けたんだろう。いまだにわけもわかってはらへんから、言いたいことちゃんと言ってくるといい。破談覚悟で、どーんとぶつかってきたら?」

「わかった。ありがとう。」

私が廊下の奥へと足を向けると、セルジュがもう一度私を呼んだ。
「あ、由未!」

振り返ると、セルジュが微笑んでウインクした。
「大変なおぼっちゃまに愛されたもんだ。……よかったな!」

……恭兄さまといい勝負の「大変なおぼっちゃま」のセルジュにそんな風に言われて、私は気恥ずかしくなり、頷くのが精一杯だった。

サンルームは、すっかり春の陽気でぽかぽかだった。

「恭兄さま?」
カウチで熟睡している恭兄さまの睫毛や目尻には涙が固まっていた。

……心配した?
悲しい想いした?
ごめんね。

私は恭兄さまのかたわらにそっと跪き、その頬に口づけた。