ヒロインになれない!

「……今時、婚約指輪に世間体なんか関係ないと思うけどね。あ、僕は大きさや値段じゃなくて、クオリティ重視だけど。」
最後は静稀さんに向かってそう言っていた。

伯父さんが世界的に有名なデザイナーのセルジュは、ほっといたって、クオリティの高い石を超一流ブランドに依頼して作ってもらうだろう。

「……由未ちゃんは、自分で選びたかったの?」
静稀さんにそう聞かれて、ちょっと考える。

「ううん。まだ興味がないねん。私の年齢で、そんなたいそうな指輪とかおかしくない?分不相応で気が引けるんやと思う。」

セルジュと静稀さんは顔を見合わせた。

「……でも、そういう家の人と結婚するんだろ?由未にふさわしくないかどうかが問題じゃないだろ?嫁ぎ先の家にふさわしいかどうか、だろ?背伸びしてでも合わせろよ。」
「うーん。やっぱり、由未ちゃん、コミュニケーション不足じゃない?ちゃんと『恭お兄さま』と話し合う必要があるんじゃないかな。」
セルジュと静稀さんが口々にそう言った。

私は、小さくため息をついた。
「由未……。君、もしかして……マリッジブルー?」
セルジュが半笑いでそう言った。

マリッジブルー。
そうかもね。
結婚ってのがよくわかってないんだと思う。

何より、いまだに私には、天花寺(てんげいじ)家がわからない。
恭兄さまが年に何度も正装で出かけられても、どこで誰と何をしてはるのか、見当も付かない。

結婚したら、私も同行するとか言われても、絶対無理だ。
私は、自分を抱きしめてぶるっと震えた。

「ごめん、今夜は寝るわ。明日また考える。彩乃さんにも聞きたいし。セルジュ、お兄ちゃんに連絡せんといてや。おやすみ~。」

私は二階の、2年間使わせてもらっていたお部屋で就寝した。

全てから逃避するように。

翌朝、けっこう早くに目が覚めた。
お台所で朝食の準備をしていると、セルジュも起きてきた。

「夜中に義人からメールあったよ。君がここにいないか問合せ。返事してないけど、どうする?」
……セルジュに嘘つかせるのは申し訳ない、ね。

「いるけど夕方にはちゃんと帰るから、そっとしといて欲しい、って伝えてくれる?」
「わかった。義人にも来て欲しくないんだね?」
「……う~ん、お兄ちゃんは……どっちでもいいや。」

セルジュは苦笑した。
「今のは義人のために聞かなかったことにしておくよ。9時半には彩乃が来るから。」

静稀さんが降りてくるのを待って、一緒に朝食をとった。

食後のコーヒーを飲んでゆっくりしてると、玄関チャイムが鳴った。
「彩乃先生、はや~い。」
男性用のお着物に着替えた静稀さんが、いそいそと玄関に走った。

「おはようございます~。あら?」

驚いてる静稀さんの後ろから、私も顔を出して、息をのんだ。

青ざめた顔の恭兄さまが、玄関ポーチに立って居た。

「……いた……よかった……」

恭兄さまは私を見て、そう言って崩れ落ちた。