ヒロインになれない!

「ふふ。それはそれで問題なのよ、日本では。あのね、祖父母とは逆でね、私の両親は昔から父が母にものすごーく甘いの。母は天然のお嬢様だから、祖母のように賢くわきまえることもできなくてね、父は完全に諦めてるわ。母は一生『何もできないお嬢様』でいいらしいけど、やっぱり外聞は悪いよ?」

……何もできないお嬢様……。
今更私がそんなキャラになれるわけがない。
でも、悪妻、も悲しい……。

静稀さんは、携帯電話を取り出した。
「セルジュに連絡していい?」

「……うん。」
いつまでも逃げられるものでもないことはわかっている。
私は、観念して静稀さんにお任せした。

「セルジュ?……うん、ただいま。大丈夫。うん、遅くなってごめんね。ふふ、お客さま1人連れてってもいい?……内緒。客室1つ使わせてね。そうよ、お泊まり。お願いしますね。」

私は、静稀さんがセルジュを通して兄に私の居場所を連絡すると勘違いしていた。
「静稀さん……ありがとう……」

「ま、一晩ゆっくりしたら、気持ちも落ち着くでしょ。あ!明日は彩乃先生が来るわ。」
静稀さんは、彩乃さんに日本舞踊を教えてもらっている。
次の公演では舞を舞うらしい。

「彩乃先生にも意見を聞いてみたら?お家元のお孫さんなんでしょ?人間関係大変そう。」
静稀さんの提案に私は素直にうなずいた。

タクシーで移動して、セルジュん家に到着したのは22時前だった。
ちょうど1年ぶりのセルジュは、ほとんど変わってなかった。

「おやまあ。珍しい。……あれ?もうすぐ結納って聞いてるけど……破談?」
「セルジュ!ひどい!」

静稀さんが怒ってくれたけど、私は苦笑いするしかなかった。

勝手知ったるお台所で、マサコさんの作り置いてくださってるお料理を、静稀さんと一緒に遅い夕食にいただいた。

やっぱり、美味しい。
先月、イカナゴのくぎ煮を送ってくださったときにも感動したけど、マサコさんのお料理は私にとって家庭料理のお手本だわ……母には悪いけど。

私は冷蔵庫や冷凍庫をあさり、マサコさんの味を堪能した。

「義人に連絡しなくていいの?ほんとに。」
食後に、暖炉のそばでくつろいでいる時に、セルジュに念押しされた。

「一晩ぐらい、いいんじゃない?ね?」
静稀さんの言葉に、私は頷いて意思表示した。

「ふうん?家出の理由は?……婚約指輪のダイヤが小っちゃかった?」

「どうでもいいよ、ダイヤも真珠も。私の意志なんか関係なく、世間体で勝手に高いのん買わはるねんから。知らん知らん。」

私が拗ねてそう言うと、セルジュは首をかしげた。