「でも京都で修行してきたお菓子屋さんにお願いして、和三盆で上品な餡にしてもらうから大丈夫だよ。余ったら揚げ饅頭にするんだ♪」

揚げ饅頭……それは好きかも。
想像してうっとりしていると、恭兄さまがおもむろに仰った。

「由未ちゃん。嫌な気持ちになることもあるかもしれないけれど、聞き流してくれるかな。黙ってニコニコしてくれてたら、僕が何とかするから。無事終わったら宥めてあげるからがんばってね。」

私は生唾を飲み込んだ。
恭兄さまがそんな風におっしゃるということは……やっぱり私はご親類に受け入れられないのだろうか。
怖すぎる……。

そうこうしてるうちに、玄関チャイムが鳴った。

「来た!」

私は、お座敷の隅の下座に控えて畳に正座した。
りかさんがお迎えに出てくださる。

恭兄さまはいつもと違う鷹揚な仮面をかぶり、堂々と上座の座布団に鎮座した。
天花寺家の当主として。


「まぁ~、素敵なお飾りですこと。」
「婚約指輪は、こちらですか?すばらしいですわね。」
「あら、反物や帯地はございませんのね。残念ですわ。楽しみでしたのに。」
「ほう。竹原さんの……」
「こちらは相変わらず全て京都風ですのね。」
「春から東大生!優秀なお嬢さんですね……」
「先代の葬儀でお父さまとお兄さまにはお世話になりましたのよ。」
「お式は秋ですか……では、晩餐会には新年からのご参加かしら。」
「あなた、恭匡さんとご結婚できるなんて、本当に幸せなことなんですよ。わかってらっしゃるの?」
「お優しい旦那様でうやらましいわ。」
「世が世なら……あら、失礼。ほほ。」

……あ~~~~~……いいかげん、笑顔が引きつってきた。

京都人ほどじゃないけど、言葉の端々に興味だけじゃなく、悪意や敵意もちくちくと感じさせられて、笑顔をキープするのはなかなか大変だった。
入れ替わり立ち替わり、何人ものご親戚が来られて、結納品と私を品定めして行った。
誰に対しても堂々と振る舞ってらっしゃる恭兄さまも、臆さないりかさんも、すごい。
私もいつか、にこにことお上品に微笑んでいられるようになるのだろうか……。

「そろそろ正午だね。今日はこんなもんかな。」

恭兄さまが時計を見てそうおっしゃるのを聞いて、私は足を投げ出した。

「お昼からは来はらへんのん?」
「お祝い事は、午前中に訪問するものだよ。」

……恭兄さまはあくまで優しく教えてくださるけど、りかさんの目線が何だか痛かった。
そんなことも知らないのか、と言われているようで。