「かわいいよ。あ、お座敷では白い靴下を履いてね。炉を切ってるから。」

白い靴下……って、あったっけ?
炉を切る?
私の頭にははてなマークが飛び交っていたけれど、とにかく恭兄さまのおっしゃる通りに従った。

9時に、お菓子屋さんとお手伝いのりかさんがいらっしゃった。
りかさん、着物!!

「由未さん、お洋服ですか!」

逆にそう言われてしまった……ドキドキ。

「はあ。恭兄さまに、今日はこれでいいって言ってもらったんですけど……まずかったですか?」

りかさんは、小さく舌打ちした!
……家事全般のみならずお茶やお花も達者なりかさんだが、実は元レディース幹部でもあるので、かなり怖い。

「……ったく、恭匡(やすまさ)さま、由未さんに甘いんだから……」
「りかさん……聞こえてます……怖いです……。あの、私もお着物のほうがよかったですか?」

ため息をついて肩をすくめたりかさんに怒られる。

「遅いですよ、もう!次の大安からはお願いしますよ。恥をおかきになるのは、由未さんじゃなくて、恭匡さまなんですからね!」
「はあ……すみません……」

また怒られてしまった。

受験が終わるまでは、りかさんとはご挨拶しかしたことがなかったのだが……最近ずっと怒られっぱなしな気がする。

どうやらりかさんは、私の教育係を自認しているらしい。
厳しいけれど意地悪じゃないので、私は従容としている。

1つ紋の江戸小紋を粋に着こなしたりかさんは、てきぱきと昆布茶とお菓子の準備を進めていた。
お菓子は、紅白の結びと松葉の飴細工。
かわい~~!
味見しようとして、りかさんにめちゃめちゃ怒られてしまう。

「もう!由未さん、お座敷で座っててください!……あ!下座ですよ!恭匡さまの隣とか、ダメですよ!」

はぁい……しょんぼり。

すごすごとお座敷に戻ると、恭兄さまは手持ち無沙汰になったのか、筆を取ってらした。

「何時頃、お客さま、お見えになるん?」
「さあ?何人来るかも、いつ来るかも、不確定だよ。もしかしたら誰も来ないかもね。」

……ますますよくわからない

「そういうもんなん?」
「うん。そういうもの。結納からお式までの大安はずっと、そういうもの。……たぶん、由未ちゃん、一生分の薯蕷(じょうよ)のお饅頭を食べることになるよ。毎回けっこうな量を注文するけど、絶対残るから。」

ひーっ!