「児童養護施設で育った子や。由未があまりにも早く兄離れ・母離れしたからな、俺もお母さんも淋しがってて愛情注ぐ対象がほしいねん。」

は?
「そんな、ペット飼うんじゃないねんから……」

憤慨する私を兄は慌てて宥めた。
「いや、もちろん、彼女を幸せにしたいからやで。おもちゃにもペットにもせえへん。由未も優しぃしたってな。ほな行くわ!」

嵐のように去っていった兄。
「養女やって。どういうつもりやろ。」
囲炉裏で炊いた中華粥で遅い朝食を取りながら恭兄さまにそう聞くと、うーんと、少し考えてからおっしゃった。

「いろんな可能性が考えられるけどねえ……施設で育ったと言ってても、血縁かもしれないし、知人の子という可能性もある。でも、今の義人くんを見た感じ、僕は義人くん自身がその女の子に惹かれたんだと思う。」

マジ?
「……って、いくつ?その子。子供ちゃうん?」

コホン、と恭兄さまが咳払いした。
「あ~、相手が子供でも、本気で好きになることを否定しないでもらえるとありがたいんだけど。」

そういえば、恭兄さまは8歳の私を特別視してくれた人でした。
「ごめんなさい。ありがとう。おかげで、私は今とても幸せです。」

恭兄さまの肩に頭を預けて、私はそう言った。

10年前、私にとって恭兄さまは、恐れ多くてうまく甘えることもできないけれど、優しくしてくれはる、ちょっと変な人だった。
それが今、大好きなはずの兄よりも、愛しくて大切な人になるなんて。

「僕もだよ。……あのね。」
そう言って、恭兄さまは私を自分の膝の上に座らせた。
バランスが取れず、慌てて恭兄さまの首に手を回す。

恭兄さまは私の背中を撫でながら言った。
「今だから言えるけど、僕は、佐々木和也くんどころか、義人くんにさえ嫉妬してたんだよ。」
「……いつ?」
「ずっと。」

……そうなんや。

「まあ、義人くんはすごいと思うし、いい男でいいお兄さんだから、敵(かな)わないって諦めてたんだけどさ。」
「……」
「今日、やっと由未ちゃんを独占できた気がする。」

ふふっとうれしそうに笑う恭兄さま。
私はちょっと困ってしまった。
……遅いんちゃう?
たぶん、この夏ぐらいから、私は恭兄さましか見えてなかった……で?
ま、いっか。

「独占、してください。」
私は恭兄さまの目を見つめてそう言った。

恭兄さまは、笑いを納めて、私をじっと見た。