ヒロインになれない!

私はしどろもどろに言った。

「あの……私……やっと、恭兄さまが好き、って……自覚できたばっかりやけど……」
「うん。」

「それに……今、けっこうボロボロやねんけど……心身共に……」
「うん。だから、ずっとそばにいて守ってあげたいんだ。嫌かい?」

嫌なわけない。
どうしよう……すごく……うれしい。
うれしすぎて、何も考えられない。
このまま流されてしまおうかな。

恭兄さまと、結婚。
毎日、恭兄さまとあの家で、ずっと一緒に暮らす……。

天花寺(てんげいじ)家に……入る……てことは……うるさくてめんどくさそうなお付き合いも生じるけど……
……間違いなく、虐められるんだろうな。

私は、ぷるぷると首を振った。
「恭兄さまが好き。ずっと一緒にいたい。でも、大学には行かせて。」

そう言って、恭兄さまの首に腕を回してしがみついた。
恭兄さまが、しっかりと抱きしめてくれる。
安心感に、ほうっとため息をついた。

「……私、恭兄さまに釣り合うものが1つもない……最初にお会いした時から、恭兄さまは雲の上の人やねん。」
恭兄さまの手に力が入った。

否定してくれてるのがわかって、私の心が温かくなる。
「これ以上、自分を卑下したくないから、せめて学歴ぐらいはふさわしくなりたい。」

恭兄さまは、私を腕に抱いたまま、顔を起こして至近距離で見る。
「僕には、そのままの由未ちゃんが大事で、何の問題もないんだけどね。」
「うん。……でも、恭兄さまの周囲はそうじゃないから。」

……今更学歴積み上げたところで私の評価は変わらないだろう。
所詮、元使用人の家の娘、成金の娘でしかないと思う。

それでも、暴行を受けてさらに自分自身に自信のなくなった私には、拠り所が必要だった。

恭兄さまは、私の顔をじーっと見つめてから、頷いた。
「わかった。じゃ、東大に行きなさい。誰にも文句を言われないところに堂々と合格して卒業しなさい。」

優しい命令形に、私の胸がドキドキとときめきだした。
……恭兄さまの命令形……珍しいな……でも……素敵だな。

「はい。」
そう返事した私に、恭兄さまの顔が近づいた気がした。

キスが来る!?
そう身構えて目を閉じると、恭兄さまは私のひたいにそっと口づけた。
おでこ……か。

ちょっと残念に感じたけれど、続いて、まぶたにも恭兄さまの熱を感じた。
両方のまぶたに、そーっと唇を付けられ、何だかくすぐったい。

ふふっ……と、肩をすくめて、小さく笑いを漏らすと、今度はその唇がしっとりと包まれた。

あ……。

恭兄さまのキスは、お人柄そのものというか……優しくて、甘くて……唇が触れているだけなのに心地よかった。