ヒロインになれない!

「……よくぞご無事で……。」
思わずそう言った私に、恭兄さまは曖昧な微笑を見せた。

「ことさんは、相手の気持ちを尊重する人だから。僕はずっと由未ちゃんが好きだったから、ね。」

何だかとても不思議な気分だった。
私の知らない期間の恭兄さまやのに、私が深く関わってるなんて。

てか!
やっぱり存在するのか!
男子校の寮にはそういう手合いが!
面白すぎるじゃないかっ!

……知織ちゃんに報告しなきゃっ♪


お昼頃には帰宅できた。
恭兄さまには、無理しないように言われたけど、私自身どうしても美味しいおだしに飢えていたので、お台所に立った。

昆布に切り目を入れて、お水に浸す……なんか、それだけで、幸せを感じて涙が出てきた。
ここに戻れたことが、うれしすぎて。

当たり前の生活が、どれだけ大切か、私は改めて知った。
と同時に、不安と心配が芽生えた。

……私が踏みにじった彼奴等(きゃつら)は、どうなったんだろう。
考えたくないけれど、忘れ去ることはできなかった。


お昼は、ふぐの干物をたっぷり入れたふぐ雑炊にした。
昆布をしっかり効かせたおだしは滋味で、体中に染み渡るようだった。
一週間前のお葱と三つ葉はダメになっていたので、岩のりと生姜で香りを足した。

「夕食は、季節のものが食べたい。知織ちゃんを送りがてら、一緒に買物に行こう。」
恭兄さまに食欲が戻ってきている。

私はそれだけで、涙が出るほどうれしかった。


16時前に知織ちゃんが来てくれた。
「退院早かったねえ。よかった!」
と、学校からの配布物や授業のノートのコピーをくれた。

進路調査票と内部進学願書もあった。
「……決めた?」
知織ちゃんに問われて、私は自分でも意外なことを口走った。

「女子大にしようかな。」
今まで考えもしなかったのに。

知織ちゃんが、さっと顔色を変えた。
「由未ちゃん……。今逃げたらトラウマになるんちゃう?」
逃げる、か。

私は、中庭の向こうに目をやった。
いつもは閉まってる御簾戸を開けてもらってるので、ずっと恭兄さまを見ることができた。
「まだ自分でもわからへんねん。恭兄さまには、むしろ今まで以上にくっついてたいけどね、他の男の人に対してどういう風に感じるのか。山崎医師は特殊やったし。」

知織ちゃんは、うんうん頷いて聞いてくれた。
「まあ、内部進学じゃないなら、まだもうちょっと考えてもいいんちゃう?受験勉強、本腰入れんとあかんけど、ね。」

……そうね。