ヒロインになれない!

「ことさんって、ニックネーム?」
恭兄さまは、ゴソゴソと鞄を探って名刺を取り出した。

そこには、「副院長 山崎有功」と書かれていた。
「ゆうこう……あり……」
読めない。

「やまざき、ありこと。珍しいよね。僕と同じぐらい難読名だよね。」
ありこと、なるほど、それで、ことさん。
「難読名つながりで仲良くなったん?」

そう尋ねると、恭兄さまは笑った。
「昨日からずいぶん気になるみたいだね。ことさん、かっこいいけどさ、浮気しちゃダメだよ。」

は!?
何でそうなるの?

……山崎医師、かっこよかったっけ?……ごめん、マジ覚えてへん。
いや、怪しい色気は感じたから、たぶんかっこよかったんだろうけどさ。

「ことさんは、僕が編入した年の寮長だったんだよ。それで世話を焼いてくれてね。」
「寮長。なるほど……って、とうもろこし食べさせてもらう理由にはならへんもん。」

そう言って、私は恭兄さまの腕をつかみ、ぐいっと顔を擦り付けた。

「あ~、それは……。由未ちゃんも言ってたけど、みんな、トウキビに齧(かじ)り付くんだけどね、僕、どうしてもそれができなくて。一粒ずつ取って食べてたんだ。」

なぜ、できない!?

「いつも独りだけ残って食べてたら食堂のおばさんから、片付かない、ってクレームが出てね。それでことさんが、半分手伝って取ってくれてたんだ。」

なんじゃ、そりゃ。
「……百歩譲って、齧り付けないとしても、ナイフで、ざくっと削ぎ落としたらいいんちゃうん?」

恭兄さまは、ふるふると首をふった。
「それじゃ3分の2ぐらいしか食べられないじゃない。由未ちゃん、北海道のトウキビは、ものすごく美味しいんだよ。そんなもったいないことできないよ。」

普段もったいないことしまくりの御仁が、よぉ言うたもんや!
「私も食べたい。トウキビ?」

恭兄さまは、ぱあっと顔を輝かせた。
「じゃ、食べに行こうか!北海道!いいとこだよ!」
「うん。行きたい。連れてって。」
私はそうおねだりしてから、ほうっと息をついた。

「……よかった……山崎先生、ゲイかと思って、ドキドキしちゃった。」
「え?なんでわかったの!?」
恭兄さまがすっとんきょうな声を出した。

え!?
「……結婚してはるんちゃうん?」

恭兄さまはこともなげにさらっと言った。
「ああ、ことさん、体は両方いけるし野心家だから。でも心は完全にゲイだよ。見境ない人じゃないから安心だけどね。」

いやいやいや。

見境あろうがなかろうが、恭兄さまに対する怪しい雰囲気はやっぱりそういうことなのか!

めちゃめちゃ秋波送ってたやん。