一瞬たじろいだけど、恭兄さまが幸せそうに召し上がってるのを見ると迷いは消えた。
「お願いします。栄養価が高いなら、今の恭兄さまにはぴったりやと思うんで。お手数ですが、教えてください。」
山崎医師が私をじっと見てる……いや、診てる。
「……わかりました。後でお渡しします。」
そう言ってにっこり笑った山崎医師は、怪しいゲイ疑惑の先輩ではなく、正真正銘お医者様の顔をしていた。
「一晩で、穏やかになりましたね。病院の風紀的にまずいらしいんで、あと2日間は部屋を分けさせてもらおうと思ったんだけど。」
恭兄さまと私は、どちらからともなくお互いを見た。
そんな私達を交互に見て、山崎医師は言った。
「もう、大丈夫でしょう。2人とも退院していいですよ。」
私はそれを聞いて、安堵のため息をついた。
帰れる。
やっと、家に帰れる。
恭兄さまのお家やけど、この半年で、私にはあの家がどこよりも落ち着くホームになっていた。
知織ちゃんの見立てで恭兄さまが買ってくれたという洋服に着換えた。
2人の好みらしい、落ち着いた品のいい紺のワンピース。
鏡に映った私は、別人のようにやつれていたけれど、腫れも痣もほぼ引いていた。
……大丈夫。
傷つけられた女、と一目でわかるものは何もない。
自分にそう言い聞かせて、はじめて個室を出た。
途端にいろんな音が洪水となって押し寄せる……耳鳴りのように、ぼわーんとした音が頭の中に響き、めまいがした。
ふらついた私を恭兄さまが支えてくださる。
「ごめんなさい……音に酔ったみたい……」
鼓膜が破れるって、不便。
電車とか学校とか、大丈夫かな。
入院してた病院は、総合病院としては中規模だったがかなり贅沢な造作だった。
受付のお姉さんもみんな美人で親切!
フロントにはドアマンのような制服のかっこいい警備員さんもいて、タクシーに案内してくれた。
「なんか、すごくイイ病院みたい……。ここ、どこ?家から遠く?」
恭兄さまと並んでタクシーに乗り込んでから、そう尋ねる。
「家からなら車で30分ぐらいかな。ことさん、ここの婿養子だから融通効くかと思ってお願いしたんだ。」
ことさん……山崎先生のこと?
え?婿養子?
ほな、クロワッサンを作ってくれはったのは、病院のお嬢さま……へえええ。
「だからね、学校とご実家には、おたふく風邪って報告してるから。おたふくの菌で耳鳴りがする、って言えばいいから、って。」
おたふく……はは、そりゃイイわ。
「お願いします。栄養価が高いなら、今の恭兄さまにはぴったりやと思うんで。お手数ですが、教えてください。」
山崎医師が私をじっと見てる……いや、診てる。
「……わかりました。後でお渡しします。」
そう言ってにっこり笑った山崎医師は、怪しいゲイ疑惑の先輩ではなく、正真正銘お医者様の顔をしていた。
「一晩で、穏やかになりましたね。病院の風紀的にまずいらしいんで、あと2日間は部屋を分けさせてもらおうと思ったんだけど。」
恭兄さまと私は、どちらからともなくお互いを見た。
そんな私達を交互に見て、山崎医師は言った。
「もう、大丈夫でしょう。2人とも退院していいですよ。」
私はそれを聞いて、安堵のため息をついた。
帰れる。
やっと、家に帰れる。
恭兄さまのお家やけど、この半年で、私にはあの家がどこよりも落ち着くホームになっていた。
知織ちゃんの見立てで恭兄さまが買ってくれたという洋服に着換えた。
2人の好みらしい、落ち着いた品のいい紺のワンピース。
鏡に映った私は、別人のようにやつれていたけれど、腫れも痣もほぼ引いていた。
……大丈夫。
傷つけられた女、と一目でわかるものは何もない。
自分にそう言い聞かせて、はじめて個室を出た。
途端にいろんな音が洪水となって押し寄せる……耳鳴りのように、ぼわーんとした音が頭の中に響き、めまいがした。
ふらついた私を恭兄さまが支えてくださる。
「ごめんなさい……音に酔ったみたい……」
鼓膜が破れるって、不便。
電車とか学校とか、大丈夫かな。
入院してた病院は、総合病院としては中規模だったがかなり贅沢な造作だった。
受付のお姉さんもみんな美人で親切!
フロントにはドアマンのような制服のかっこいい警備員さんもいて、タクシーに案内してくれた。
「なんか、すごくイイ病院みたい……。ここ、どこ?家から遠く?」
恭兄さまと並んでタクシーに乗り込んでから、そう尋ねる。
「家からなら車で30分ぐらいかな。ことさん、ここの婿養子だから融通効くかと思ってお願いしたんだ。」
ことさん……山崎先生のこと?
え?婿養子?
ほな、クロワッサンを作ってくれはったのは、病院のお嬢さま……へえええ。
「だからね、学校とご実家には、おたふく風邪って報告してるから。おたふくの菌で耳鳴りがする、って言えばいいから、って。」
おたふく……はは、そりゃイイわ。



