ヒロインになれない!

恭兄さまが言うには、その夜、やっと私は暴れることなく朝を迎えられたらしい。
ただ、明け方、それでもシクシク泣いていたそうだ。
恭兄さまは、私のベッドの横に座り、私の手を握って宥めてくださったらしい。

朝起きたら、恭兄さまが私のすぐ横に突っ伏して寝てはって、びっくりした。
……飲まず食わずでまともに睡眠も取ってへんかったって……そりゃ倒れるよ……恭兄さま。

恭兄さまの腕の中で眠れば、泣くこともなくなるのだろうか。
私は想像して、独りで恥ずかしくなった。

朝8時に朝食が運ばれてきた。
お粥、菜っぱのお浸し、お味噌汁、オレンジ、牛乳。

組み合わせのおかしさはおいといて、まあ、私は問題なく食べられた。
が、恭兄さまはオレンジにしか手をつけようとしなかった。

「一口ずつでも食べんと!」
そう促してると、山崎医師が入ってきた。

「おはよう。喰った?」
私の空になったトレイと、恭兄さまのトレイを見比べて、山崎医師は笑った。

「予想通り。天花寺(てんげいじ)、これなら喰えるんじゃない?よつ葉バター100%使用のクロワッサンとよつ葉のノンホモ牛乳。」

「よつ葉!」
恭兄さまが、きゃっきゃとはしゃぎだす……昨日のとうもろこしの時と同じだ。
完全に餌付けされてはるし。

……てか、パンでもあれだけテンション上がるんや。
知らんかった。
何か、くやしい。

「おはようございます、山崎先生。クロワッサンはどちらでお求めですか?」
今後のために、私は尋ねてみた。
甘いイイ香りがしてて、確かにおいしそうで、私も食べてみたくなったのだ。

でも山崎医師は首を振った。
「これは妻(さい)の手作り。」

さい……妻?
あ、結婚してはるにゃ。

私は、自分の肩の力が抜けるのを感じた。
なんだ、てっきり……ゲイかと疑ったわ。
「うわぁ、すごいね!由未ちゃん、由未ちゃん、おいでおいで。一緒にいただこう♪」
恭兄さまの頭に、花が咲いてる……。

今までの私ならちょっと引くところなんだろうけど、今朝は自分でも不思議と引き寄せられた。
恭兄さまのマジックにかかってしまったのだろう。

クロワッサンは本当に美味しかった!
さくさくふんわり……ほどよい甘さと強烈なバターの香り。

「すごい。奥様にレシピ、教えていただきたいです……」
私は真剣にそう言った。

山崎医師は、肩をすくめた。
「やめといたほうがいいかも。作ってるとこ見ると喰えなくなるぐらい、大量のバター使ってるから。」

そんなに!?