駅のそばに、小さな医院があった。
内科・産婦人科……。
私は、その病院に飛び込み、受付の小窓を叩いた。
奥からめんどくさそうに出てきた薬剤師さんが、私を見て口を押さえた。
……そんなにひどい姿になってるのか。
彼女の反応から、私は自分の状態を悟った。
甲高い声が聞き取りにくい。
「ごめんなさい。よく聞こえないんです。左耳、おかしくて。……レイプされました。診察お願いします。」
意外としっかりそう言えた私を彼女は抱きかかえるように、通してくれた。
奥から毛布を持った看護師さんがやってきて、私をくるんでくれた。
9月に入ったとは言えまだ暑いのに、私は震えていたようだ。
温かい柔らかい毛布に包まれて、私は涙を流しながら、意識を手放した。


次に目を開けたのは、診察室だった。
白髪の医師が、おもむろに声をかけた。
「気が付きましたか。」
「……はい。」
頭がぼーっとする。
霧がかかったように、何も考えられない。
「私……。」
「とりあえずうちでできる処置はしました。見たところ未成年だから保護者のかたを呼ぼうとしたんだけど、嫌がって暴れたので、安定剤を入れてます。」
……保護者…………うん……親には……知られたくない……。
「うちは入院設備もないので、できたら保護者のかたに迎えに来てもらいたいんだけど……」
私は、起きあがろうとしたけれど、激しい頭痛に襲われたので、諦めて重力に身を任せた。
「……携帯、ください。保護者、恭兄さま……呼んで……」
そして、最後まで言いきる前に、私はまた意識を失った。


次に目が覚めたのは、薄桃色の壁紙なのに無機質な部屋。
病院の個室のようだ。
「……恭兄さま……」
そうつぶやいたら、カーテンの向こうから知織ちゃんが飛び出し来てきた。
「由未ちゃん!よかった!」
知織ちゃんが私のベッド脇に駆け寄って、点滴の入っている右手を握った。
「やっと目覚めてくれた……」
ポタポタと知織ちゃんの両目から涙がこぼれる。
「知織ちゃん……」
起きあがろうとしたけど、激しい頭痛がする。
顔をしかめてると、慌てて知織ちゃんが止めた。
「無理しないで。お医者さん、呼ぶね。」
知織ちゃんがナースコールを押して、私が目覚めたことを伝える。
「恭兄さまは?」
私が尋ねると、知織ちゃんはすぐに電話を取り出す。
「すぐ呼ぶね!」
そう言いながら、電話の操作をして耳に宛てた。
「恭匡(やすまさ)さん!由未ちゃん、起きました!早く来てください!」
知織ちゃんは涙ながらに言った。
「由未ちゃん……恭匡さんね、由未ちゃんのことが心配で、食事どころか水も飲めなくて……倒れちゃったの。脱水症状で。今、点滴受けてらっしゃるわ。」
空っぽの私の中に、くっと笑いがこみ上げてくる。
……まったく……あの人は……。