ヒロインになれない!

「……ええっ?夏休みって8月いっぱいでしょ?まだ一週間もたってへんのに?もう?」
驚く母の肩に兄が手を置いて宥める。
「恭匡(やすまさ)さんが帰らはるんか?結局、お父さんが連れてきた人の料理、食べはらへんかったしなあ。ほっとけへんにゃろ。」
私は、黙って頷いた。

母は、ため息をついて嘆いた。
「……なんか、既に嫁に出した気分。ここにいてても半分心があっちに飛んでるし。もう、お母さん、悲しいわ。……好きにしぃ。」

私は母にしがみついた。
「お母さん、ごめん!ありがとう!お父さんにも上手く言うといて!」
母は、呆れてたけど、最後には諦めてくれたらしい。

「由未。恭匡さまのこと、頼むわね。大事にしたげてね。」
「……(めんどくさいこと多いけど)邪険に扱わないように、気をつけます。」


前夜全く寝てなかったので、夕食後、思いっきり爆睡してしまった。
……20時頃、私の携帯電話に着信履歴が残っていたけれど、知らない番号なので無視した。

翌日は、恭兄さまのところに行かなかった。
というか、行けなかった。
親族の集まり、ということは、当然従妹の百合子姫も来るんだろうなぁと思うと、足が向かなかった。

夜、恭兄さまから電話があった。
明日の待ち合わせの連絡だったけれど、せっかくなので聞いてみた。
「ご親族、みなさま、お元気でしたか?」

恭兄さまはため息をついていた。
『……ああ。あいかわらず、だったよ。』

「お料理、お口に合いましたか?」
『そうだね。……趣向を凝らしすぎという気もするけど、いただけたよ。……今度……一緒に行こう。お料理もだけど、雰囲気がよかったよ。』

一緒に、と言われて、私の心が弾み出す。

「どこ行かはったんですか?床?」
『うん、川床。清涼感があってよかったよ。……今度はお昼に行きたいな。』

「かわどこ……あ、貴船?流しそうめん?」
『……今回は、お素麺はなかったな。……なんだかね……』

少しの間のあと、恭兄さまはしみじみと続けた。
『……いいな、って思うものがあると、全て由未ちゃんと共有したくなってることに、今日、気づいたよ。……重症だね。』
ふふっと笑ってそう言った恭兄さまに、私は絶句してしまう。

この人は本当に……。
どれだけ私を翻弄するんだろう。

『……失敗しちゃったな。』
しばらくして、ぼそっとそう言った恭兄さま。

私が返事しないから怒ってると思ったのかな?と、ちょっと慌てる。
何か言わなきゃ。

でも、私が口を開く前に、恭兄さまはこう言った。

『今日感じたことを今日中に伝えたくて言っちゃったけど、明日にすればよかった。……今、由未ちゃん、絶対赤くなっててかわいいのに。……見たかったな。』