ヒロインになれない!

まずは近くの平野神社をお詣りする。
「ここ、桜はめっちゃ綺麗やけど、なんか、お花見客が苦手。昼間っからベロンベロンに酔っ払った学生とか、うるさい団体とか。」
私がそう言うと、恭兄さまは苦笑した。

「昔はこうじゃなかったんだよ。ここは元々貴族の為の神社で、格式も高くて。今のかたの経営方針でこうなっちゃったらしいけどね。」
……そうなん!?
「知りませんでした。」
「戦後、華族と一緒にそんなの廃れちゃったけどね。」

神社を突き抜ると、すぐにわら天神がある。
わら天神と言えば、安産祈願で有名な神社。
……夕べ見た、和也先輩の子供を身ごもった彼女が無事に出産できますように。
まだ参拝時間になってなかったので、私は外から柏手を打ってお詣りした。

そのまま、西に進み、きぬかけの道へ。
どこまで行くのかな〜、と歩いてると竜安寺へ。
門は閉まってるけど、脇の小門から入れるらしい。

「昔、この近くにも親戚がいてね、よく朝の散歩に来たんだ」
小さな石を敷き詰めた道も自然な垣根も、整備され過ぎてる感がなく、程よく趣があって素敵。
さやさやと、木々を揺らす風が心地いい。

「和みますね。」
「ああ。ここは石庭が有名だけど、実は僕はまだ石庭は見たことがないんだ。こんな風には数え切れないほど来てるのにね。」

そして広がる池の景色の見事なこと。
「江戸期には、石庭よりむしろこの池とお庭のほうが有名だったんだよ。」
「ほんと、素敵。秋も綺麗やろなあ。」
「……綺麗だよ。また、秋にも来ようか。」

私は恭兄さまを見上げた。
「竜安寺だけじゃない。仁和寺も、妙心寺も、広隆寺も。京都の寺院は四季折々本当にすばらしいんだ。今、久しぶりに来てみて、僕は自分がいかに京都を愛していたかを思い出したよ。」

……まあ、食生活ひとつとっても、恭兄さまが京都ラブなのは知ってるけど。
「由未ちゃんのおかげだね。またこうしてこの極楽浄土に来れた。」

極楽浄土?
……確かに美しい庭園やけど。

「ここには特に思い入れがあらはるんですか?」
「……そうだね。ほとんど覚えてないけど、亡き母とよく来たらしいよ。」

……亡くなったお母さま……それで極楽浄土……か。

「……うん。じゃあ、また来ましょう。四季折々、お母様に会いに来ましょうか。」
つないだ手に力がこめられる。
「ありがとう。」
万感の想いが詰まった「ありがとう」に、私の頬が緩む。

「由未ちゃんは夕べ、彼を好きにならなければよかった、って言ってたね。でも僕は、例え由未ちゃんが僕以外の誰かと愛し合っても、由未ちゃんへの想いを後悔しない。心から、愛してるよ。」

続いた不意打ちのような口説き文句に、私の心臓が大騒ぎし始めた。