「で、その変態をくるみの犬にしてきたのか。」



教室に戻ってマリリンに事情を説明すると、マリリンがゲンナリマンになった。



「あんな犬嫌だなぁ。」


「なんでも言うこと聞く犬だろ?」




それはそれでものすごく嫌だ。



「くるみ、お前がいつの間にか誰かに盗られそうで俺は怖いよ。」


「誰もこんなのとらないと思うけどな。」


「…それ、そろそろ自覚しないと俺も怒るよ。」


「…副会長とたかちゃんには気を付けます。」



「あと風紀委員長も。」


「気を付けます。」



流石に自分に向けられる好意に気づかないほど鈍感ではない。

かといって、うまくあしらえる自信もない。


好意の種類がいろいろあることも分かっている。

好意と一言でまとめてはいけないことも。




「あたしがマリリンを好きな気持ちと、みんなから向けられる気持ちが同じだとは思わないんだけどな。」


「それはそうだろ。入り口が違うし。ただ、たどり着く先はひどく似通ったものだ。」



マリリンはたまにあたしに理解できない表現を使う。これはアーティストの性なのか。



「たぶん、みんなくるみが好きだよ。」


「…あたし、向けられる気持ちを利用しているみたいで嫌だな。」


「性悪。周りの女子はくるみをそう表現するんだろうな。」



「それはしんどいなぁ。あたし、もっと女の子とも仲良くしたいのに。」


「女子はお前が思っている以上に貪欲だし、裏がある生き物だよ。」


「なにそれ、経験者は語る的な?」


「この前、部活の帰りに3年の女子に声かけられて一方的に話されたけど、なかなかひどい内容だったよ。」


「なんの話だった?」


「お前がほかの男と浮気してるとか、何股もかけられてるとか、ひたすらにお前の悪口。」



「マジで…?」

「マジで。何のためにそんな話するのかと思って黙って聞いてたら、そんなくるみと別れて自分と付き合わないか?だってさ。」


「わお。あたしって相当嫌われてんのね。」