主人公 岬文乃視点

2014年8月2日の事だった。

今年はやけに暑いなぁ、早く秋こないかな。

私はそんな事を呟いて、机の上に広げてある問題集の上にシャーペンを乱雑に放り投げた。


______中学生最後の夏。

それは言い換えれば、義務教育最後の夏とも言える。

学校の教師は「受験生の自覚を持って、夏休みは一生懸命勉強するように」と口を揃えて言い、
課題をそれはもう「やってらんねーよ!」と叫びたくなるほど出したのだ。



...志望校なんか、決まってるはずはない。

とにかく毎日生きていければいいし、これといってなりたい職業もないので、地元の普通科に進学しようと思っている。

まあ、そんな事は後から考えればいいことだ。

今日はクラス会が計画されているので、午後からは市内にあるファミレスに集合になっている。

だから、親からは午前中に課題をやっておくように言われているのだ。

だが、クラス会が計画された事を知った時一番に頭にぽっかりと出てきた言葉は「めんどくさい」だったのだ。

自分でも正直驚いた。

友達はソコソコ居るし、コミュ障って訳でもない。

クラスの女子グループで起こるいざこざも飄々と避けているから、クラスの居心地が悪い訳でもない。

なんでだろう。

これを、そこそこ厳しくてそこそこに優しい普通の母親に聞いてみると、「思春期なんじゃないの」という簡素な答えが返ってきて思わず落胆した。


机に頬杖を突いて様々な思考を逡巡させていると、ベットサイドに置いてあるスマホがポーンと通知を知らせた。


「友達」の美里から、メッセージが届いていた。
それを見ると、そろそろ出るので集合場所に来い、という旨が書いてあった。


既読をつけるのも面倒くさく深い溜息を吐くとスマホと財布を一思いに掴み、バッグの中に放り込んだ。

そして持ち手を乱暴に掴むと、「行ってきます」も言わずに外に出た。

ディープブルーの空に真っ白な雲が点々と浮いている。

耳に入ってきた蝉の大合唱が、何故か私の不安を掻き立てた。