「おはようナツ。 ご機嫌はいかがかしら?」


眠たそうに目をこするナツに優しく微笑んだ。


「んー眠い。 何の用?」


"何の用" ですって?


「あんた…今日はよくも…!」

「あぁ、アレ? なんか問題あるの?
何も困ることねーじゃん」

「あるわよっ! 私がどれだけ必死に今日まであんたとの関係を黙って来たと思う!?」


あのあと、女子からのいた〜い視線とかコソコソ陰口とか、大変だったんだから!


「しーらね」

「きーっ!」

「猿かよ」


意地の悪そうな顔でククッと笑うのは、
屋代 棗 (やしろ なつめ)

愛称、"ナツ" 元々色素の薄い、茶色い髪。緩くパーマもあてている。

顔だって憎らしいほどに整っていて、数十年見てきたあたしでも、たまーにドキッとするぐらい。

たまーに、だけどねっ


ナツは、私が幼稚園の頃に斜め向かいに引っ越してきた。

初めて見た時は、お人形みたいに目がクリクリしてて可愛くって…
なのに、いつからかこんなにら憎たらしい顔になってしまった。


小中高と、ずーっと一緒に育ってきた。

だから、私とナツ、そして幼稚園の頃からの付き合いである夕雨は幼なじみ。


「学校ではあれほど声を掛けないでって言ったはずだけど!?」

「そーだっけ。覚えてねーや」

「もう、ありえない! 私の尊敬する人が誰だか分かって言ってるの!?
この猫かぶり男っ」


成績優秀者のみが集められる生徒会。

そこに所属しているナツは、頭も良くカッコ良くて優しい、と思われているため

学園での呼び名は、"爽やか王子"


本当のナツはいっつも眠そうな顔して無表情で感情が読み取りにくいしおまけに意地悪。

なのに学校では女子全員に差し支えなく優しくしたりするから、自分は王子に好かれている、とか言う女子が急増している。