「じゃ…」


言葉少なく立ち去って行く。
その後ろ姿に向かって、さり気なく声をかけた。


「…羽田、今日一緒に帰ろっ!」


明るく振る舞ってやった。
驚く様な顔して振り向く羽田に、更にスマイルもプラスした。


「彼女なんだから送ってよ。恋を教えてくれるんでしょ⁉︎ 」


授業だと思わせる為の言葉。
彼氏じゃないよ。あんたは私の代役教授。


帰るまでにこっそり本でお勉強しておこう。

仕事の合間を縫っての読書なんて、お手の物だから。




「あ、ああ…」


拍子抜け…って顔してるね。
そんなにも私の涙に驚いたの?


可愛いとこあるじゃん。
でも、許さないからね。



「じゃあね。仕事頑張ろー!」


チャオ!と手を振り、棚に向かう。

視界の端に去ってく羽田を確認しながら手を伸ばす恋愛小説。


作家さんが書いた大事な作品を私の下らない企みに使ってゴメンなさい。

でも、私、ホントに羽田が許せないの。

だから、どうか知恵を貸して……!



仕事の合間を縫いながら、同僚との恋愛ものをアレコレとつまみ読み。

羽田が休憩でいない間は、ガッツリ読書に継ぎ当てた。



フレンドがラバーになる?
友情が愛情へ変わる?



「分からん……」



やっぱどう考えても全く理解不能だけど、とにかくこれらの書いてある通りのことをすれば、羽田が喜ぶってことなんでしょ?