人の群れに吸い寄せられる蛍のようにさらに人が集まる。
中心には紗江子がいた。

なんだこの人だかりは。
何かの行列か。
おもしろい芸でもやってるの?
女優が来てるらしいよ。
へー、女優? 女優だって。
だれ、だれ? え、アイドル? 
なんで夏祭りにいるのよ。
えー、見てみたいな。
痛っ、ちょっとお、オジサン足踏まないでよ。
見えないじゃん、順番順番、

口々にはやしたてる声は無遠慮に響き渡る。
夜と言っても蒸し暑い夏に、密着した人びとの体から噴出す汗が不快に重なり合う。
離れた神楽から聞こえる壊れかけたスピーカーからは、ぼやけた盆踊りの音楽が始まった。

きゃー

叫び声とともに、誰かが倒れた。
と、その周辺の人も次々と倒れ、ドミノ倒しの様相となった。

痛い、やめて、
どけって言ってるだろ

紗江子と仲間たち、言いがかりをつけた男たちのいる輪の中心にまで
どよめきが伝わってきた。

「まただ」

声にならない声で紗江子はつぶやいた。

「行こう」
そう言うと、背後の3人を振り返った。
あっけにとられたままの男2人を置いて、4人は駆け出した。

すれ違うパトカーのサイレン音、祭りスタッフが慌しく駆けつける足音や怒声。

振り払い、逃げ切った先の薄暗い道端で、誰ともなく「帰ろう」と別れた。
紗江子が振り返ると、神社の前には救急車が駆けつけたところだった。