幸せは、きっとすぐ傍



「……泣かないでください。どうして貴女が傷付いてるんです、俺があんな話したせいですか」


嗚呼そうかと思った。私は傷付いているのか。一年前のことに今更傷付いているのか。


分かったら余計に涙を止められなくなった。隣に誰かいることが嬉しくて、穂夏は泣きながら良樹に縋り付く。良樹が穂夏の背中を優しく叩いて、それからぎゅっと抱きしめる。


「……違うんです。私、私好きなんです彼が。でもきっと彼は私のことなんて好きでもなんでもなくて、」

「そうでしょうか」

「……っ」


ぐうっと唇を噛む。良樹の落としていく言葉に、穂夏はそっと聴き入る。


「俺はそうは思わない。多分彼も貴女のことが好きだったんですよ」

「だったらなんで……っ」

「好きだからこそ酷いことをしたから、貴女に彼自身を嫌ってほしかったのではないですか。イブに振れば貴女は彼のことを最低だと思うでしょう。それで嫌って忘れてくれればいいと思ったんじゃないでしょうか」


そんなことないなんて言えなかった。代わりに口から嗚咽が漏れる。


「もっとも、彼の方は誤算だったでしょうね。こんなに貴女が彼のことを好きだったこと」


肩に冷たい何かが落ちて来る。それが良樹の涙だということには気付かない振りをする。


彼も傷付いているのだ。だって人間だから。傷付いて泣いている。


「……傍に、いて」


今度は穂夏が口にした。その言葉に良樹がうんと頷き、抱きしめる腕に力を込める。返すように、良樹の背中に穂夏も腕を回して抱きしめた。


外は一度止んだ雨が再び降り始めていた。まるで傷を舐め合う二人を隠すかのように、しとしとと。


その音を聴きながら、二人はお互いの存在を強く強く感じていた。