幸せは、きっとすぐ傍



彼女がどう思っていたのかは知らない。それでも良樹がこうしている以上、何かしらの事情はあったのだろう。


大丈夫だよ、と呟いた。大丈夫、大丈夫だから、────良樹。


「好きだよ、良樹」


するり、言葉が出てくる。それに自分自身で驚きながら、穂夏は大丈夫と繰り返す。


「……あい、してた」


彼が言葉を落とした。過去形になったそれ。


何かを吹っ切れたのだろうか、良樹はその言葉を最後に再び寝息を立てはじめる。


あの日、穂夏自身が元彼に投げた言葉と一緒だった。穂夏は涙を堪えながら、愛してたと、そう言った。


それに元彼が何と答えたか────今でもはっきりと思い出せる。


「……ありがとう」


良樹の彼女もそう言ったのだろうか。わざわざクリスマスイブに、別れなくたっていいのに、そうしたのは何故なのだろうか。


穂夏は知らない。元彼がクリスマスイブに別れ話を切り出した理由なんて。本当に何も言わずに、元彼は穂夏の前からいなくなったのだから。


それでも────穂夏は元彼が好きだったし、彼も彼女が好きだったのだ。


ありがとうともう一度呟く。一年前のことを思い出したけれど、以前より辛くないことに気付く。良樹の静かな寝息を聞きながら、穂夏の意識は闇の中に堕ちた。