幸せは、きっとすぐ傍





***


ふうっと意識が浮上した。寝ていたわけではない。読書に集中していただけだ。


そんなに時間が経っている訳ではないと思う。せいぜい十五分くらいだろうか。一話は読めたのでそれくらいだと思われる。


もう少しかかっていたかもしれないが、正確に時間を計っていた訳ではないので分からない。別段困ることもないのでいいのだが。


目的の駅までは後二十分くらい掛かる。今日はちょっとした遠出だったのだ。


こよみは座りながら小さく伸びをする。流石にずっと同じ体勢は辛い。


と、電車が減速を始めた。


降りる駅ではないので電車が遅くなるのに身を任せ、こよみはバッグの中に小説を仕舞い込む。好きな系統の話だったからじっくり読みたい。だったら休日に時間を取って読んだ方がいい。


ぷしゅーっと間抜けな音を立ててこよみの乗っている車両が止まった場所は、丁度ホームの階段のすぐ近くだった。ぼーっと眺めていると、一人の女性が階段を駆け上がって来るのが見える。


五十代くらいだろうか、駆け込み乗車すれすれで車内に走り込んで来たその女性は、視線をちらちらと泳がせる。電車が動き出したせいでよろけた彼女の腕を掴んで、こよみは席を立った。


「座ってください。私、もう十分座ってますから」


そう言って半ば強引に女性を座らせる。彼女は息を切らしたまま、こよみに向かってありがとう、と頭を下げた。どうやら対応は間違っていなかったようである。


余程急いで来たのだろう、少し経ったはずなのに彼女の息は整っていなかった。


こよみはその場から離れてドアの前に立つ。ふ、と思い立ってスマホを出すとLINEの通知が。見てみると隼人からで『気ぃ付けろよー』。約一時間前、どうやら別れた後すぐに送ってくれていたようである。


『ごめん気付かなかった、隼人もね』、そう返すとスマホの画面を黒く染める。隼人もね、何て言ったら俺は男だからとか何とか始まるに違いない、だったら見ないに越したことはない。隼人も分かっていて送っているはずだからいいだろう。