幸せは、きっとすぐ傍



外は夕焼けの朱色が映えて、もうすぐ日没だということを知らせている。彼の家に着く頃には暗くなってしまっているだろう。


恐らく駅まで迎えに来てくれているはずだから、その辺りの心配はしなくていい。


昔一度そういう目に遭った事があると言ってから、彼は過保護になった。


土曜日の夕方の電車内は休日に出かけた人たちの帰宅ラッシュで混み合っている。けれど始発から乗っているこよみは上手い具合に四人掛けの通路側の席を確保していた。


あまり得意な席ではないのだが目的の駅までは長い旅路なので座ることにしたのである。普段は長椅子タイプで向かい合わせに座ることは少ないため、酔う確率が無きにしも非ず、という感じだ。


出来ることなら変えたいが見つかるとも思えないし、今立つと恐らく戻ってきても座れないだろう。


絶対座りたい、という訳でもないから構わないといえば構わないのだが、なるべく座っていたいと思うのが人間。こよみも例に漏れない。


手持ちバッグの中から小説を取り出して読み始める。つい先程、電車に乗る前に買い求めたその本は自衛隊を描いたもの。自衛官達の恋愛事情を書いた短編集らしい。


読書はする方だがこの作者は読んだ事がなかったため、以前から読んでみたいと思っていたのだ。今回はいいきっかけになったし、近年稀に見る有意義な時間の過ごし方をしたものである。


この先二、三年はこんな有意義な時間の使い方はもう無理だろう。


途中に挟んであった栞を抜き取り、なくさないようにバッグの外ポケットに差し込んだ。それから改めて最初のページをめくる。目次、題名、それから本文。


読み始めると止まらなくなる性質のこよみは、すぐに外界との繋がりを遮断した。