……怖かった。 近づいてしまえば、こうなることをわかっていたから。 半ば無意識に、左手を伸ばしてネクタイにかけた。 「……悪い人だなぁ、先輩は」 唇が重なろうとする瞬間にクスリと笑ったそいつは、自分のネクタイにかけられた私の左手を爪で少し引っ掻くようにしてから撫でる。 ―――私の左手薬指にある光る石のついた、真新しい指輪を。 『ネクタイと指輪』完