ニーナは自室で物思いにふけっていた。
スパイモードはオフだ。

スパイモードとは、いつもの人間らしさを
切り離し、感情の一切を見せなくすことだ。
といっても、無表情になるわけではない。
表情は一人ひとり違う。

その表情を決めるのは
〇歳~三歳までの生活だ。
「三つ子の魂百まで」
という言葉があるが、その言葉のとおり、
三歳までの生活が楽しければ
スパイモードの時は楽しい表情になり、
悲しいことばかりだと、
悲しそうな表情になる。



ニーナは、五歳になるまで
継母に育てられた。
継母には実に娘がいた。
ニーナには名前が無く、
「ねぇ」とか「ちょっと」
と呼ばれていた。
父親も、継母との間に生まれた子を
可愛がっており、ニーナを守ろうとは
しなかった。

継母は、ニーナが物心ついたとき、
忌々しげに

『喋るんじゃないわよ』

といった。
少しでも喋れば平手打ちが飛んできた。
ニーナは、一つ下の継母の娘が
楽しそうに話すのを見ながら
黙っているのが日課になった。

四歳になると、継母は
ニーナに家事を手伝わせた。
幼稚園にも行かせなかった。


そうして五歳になった時、レイが来た。