Pacifism Spy

「久しぶりだな、イチゴ。」

「テメェ・・・」

「今日がテメェの命日だ!」


時雨は高らかに宣言すると、
バットを振り上げ、

「戦闘主義スパイ、時雨だ!
 よろしく!」

言い終わると同時に
イチゴに向かって振り下ろした。

イチゴは咄嗟に飛び退く。
その際にあとの八人は
別方向へ走り出した。

「待て!」

イチゴはそう叫んだものの、
襲い来る釘バットを避けるので
精一杯だった。

体勢を立て直し、反撃しようとするが、
時雨はバットを振り回しているので、
うっかり近づけば自分が殺される。

イチゴはポケットに
あるものを入れていた。
それはイチゴにとって切り札だ。
まだ使えない。

イチゴは肉弾戦で負けたことはない。
ただ、それは相手も丸腰の場合だ。
時雨のように釘が飛び出ている
バットを四六時中振り回されていては、
近づこうにも近付けない。

さらに、今は部屋にいるサンゴや
倒れているナナのことも心配だ。


八人がニーナとサンナに
追いつくのも阻止したい。

リーダーにはなんとしてでも
伝えなければ。

イチゴは十メートルほど距離を置き、
無線を取り出した。

「0」をプッシュする。

「・・・こちら15、応答願います。
 リーダー?」

しかし、ザザーというノイズだけで、
何も聞こえない。


「まさか・・・!」

イチゴは、もしやリーダーは
もうやられたのかと思った。

そういえば、あとの八人が
行ったほうからは物音がしない。

聞こえるのは自分と相手の息遣い、
そしてバットを振るヒュッという
音だけだ。

イチゴは、ここで生き残ったのは
自分だけなのでは?という思いに
駆られた。そのとき、

ーバタン!-

「・・・!」

イチゴははっとした。
続いて、同じ音が何度もする。

イチゴは今の考えが
馬鹿らしく思えた。