Pacifism Spy

霙は自室の中心にある
テーブルに向かってブツブツと
言いながら、紙に向かって
何か書いていた。

彼女の周りには
くしゃくしゃに丸まった紙が
たくさん転がっていた。


「駄目よ、こんなんじゃ。」

そう言うと、
今しがた書いていた紙を丸め、
ポイッと投げた。

「どうした?」

その声とともに霜降が現れた。

散らかっている部屋を見て
ため息をつくと、一つ一つ
ゴミ箱に入れ、霙の向かい側に座った。

つけていた眼帯を外す。
その目には眼球がない。

霜降の生い立ちも素性も年さえも、
知るものは一人としていない。

「いい策がないのよ。」

霙はそういうとまた
新しい紙に覆いかぶさった。



霙は十七歳。
女性というよりは、
少女といった方がしっくりくる。

春夏と秋冬の次に古株で、
霜降にいつだって忠実だ。

一般教育を受けていなにもかかわらず、
何かを計画するのは格段に上手い。

個性が豊か過ぎではないかと
思うほどの戦闘主義スパイが
崩壊しないのも、
霜降の指導力以上に、
霙の策のおかげといっても
過言ではないくらいなのだ。

現に、部屋割りも、
表向きは霜降が決めていることに
なっているが、本当は
霙の意見をそっくりそのまま
霜降が言ってるだけだ。



「百パーセントの策なんて。」

霙は『百パーセントの成功』が
プレッシャーになっているようだ。

「そんなに気を張り詰めるな。
 いつも通りにやればいい。」

「でも・・・。」

霜降ももう一言
『気にするな』
と言い残し、寝室に入っていった。


霜降はかつて霙にああしろこうしろと
言ったことがあった。
霙は軽くノイローゼになったうえ、
いい策が思いつかず、
パニクったことがあった。
それ以来、霜降は霙の策に
ケチをつけずにきた。

なので、今回もあえて
何も言わないことにした。
そしてそれはやはり
いい方向に転んだ。

しばらく考えた後、
霙は再び紙にペンを走らせ、
ついに計画書を完成させた。