Pacifism Spy

時雨は、十歳のとき
初めて人を殺した。

このときはまだ、
時雨には別の名前があった。

暴力的な父親が原因だった。

ある日、父は急に狂ったように叫び、
母の首を締め上げた。
母はしばらくもがいた後、
ぐったりとなった。

時雨はいつも自分を守ってくれた母が
動かなくなったのを見ると、
自室へと逃げ込み、
動かせるものは全てバリケードとして
ドアの前に積み上げた。

父は

『出て来い!今出てくれば
 母さんのようにはしない!』

と言っている。

時雨はベッドに立てかけてある
バットを手に取った。

時雨は決心した。
父を傷つけるとか、
もし打ち所が悪かったらとか、
そういうことは全て頭から締め出した。

そして、父が体当たりで
ドアをぶち破ったのと同時に、
バットを振り下ろした。


鈍い音とともに父は倒れた。
父が握っていたナイフは
父の心臓辺りに刺さった。

時雨は予想外の出来事に
慌ててナイフを抜いた。

血が飛び散った。

そのとき、時雨はそれを
美しいと思った。

鮮やかな、朱。

時雨は抜いたナイフを再び、
父に突き立てた。
鉄の匂いが充満し、父はこときれた。

時雨は母のもとへ行った。
母は死んでいたが、
時雨はまだ暖かい母の手を握り、

「母さん。父さんは死んだよ。
 俺・・・もう自由だよな?」

と、長いこと話しかけていた。


天候は、時雨というべきだった。


そのすぐ後に霜降が現れ、
時雨と言う名を与え、
組織に迎え入れた。