この広い屋敷には、
部屋が何十とある。
しかし、住んでいるのは
霜降を始めとする十人で、
二人一組で一つの部屋を使っている。

部屋にはバスルーム、トイレ、
バルコニー、そして
ベッドルームがある。

そんな中屋敷の隅から隅に響くほどの
すさまじい怒鳴り声があがった。

「てめぇ・・・殺す!」

ある一室で時雨がやみくもに
釘バットを振り回している。

第三者からみれば、何もないところで、
ただバットを振っているだけだ。
しかし、ちゃんと標的はいる。
見えないだけだ。

「全く、殺せるなら殺して欲しいぜ。
 クククク。」

何もないところに突然霧雨が現れた。
時雨はそれを見計らい、
釘バットを振り下ろした。
しかし、

ーバシャン!-

という音とともに、
霧雨はまた霧になった。

この一時間、ずっとこの調子だ。
始まりは、一時間前にさかのぼる。



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「なぁ、時雨。」

「・・・んだよ?」

二人はバルコニーで話していた。

「平スパの中の獲物は?」

今の「平スパ」とは
「平和主義スパイ」を
短くしたものだ。

霧雨は正式名称が長いと、
何でも省略したがる。

しかし、なんともまあ、
何かのスパゲティみたいな名前だ。

しかし、時雨も慣れているのか
何も突っ込まずに答えた。

「決まってんだろ。イチゴだよ。」

そこで一息つき、
イチゴのグリーンの目を
思い出した。

「あいつをこれで
 ぐちゃぐちゃにしてやるぜ。」

そして、バットから飛び出ている
釘を磨き始めた。