「あの・・・。」

「どうしました?」

店員は優しそうな人だった。
ナナは少し怯えた声を出した。
もちろん顔もだ。

「私・・・誰かに尾行されていて・・・。」

「え?」

「お願いです!裏から逃がしてください!」

店員は一発オーケーしてくれた。
警察も呼んでくれると言っていた。

ナナは店を出ると一目散に走り出した。
五人はしばらくしてから気づくか、
警察に驚いて逃げるかのどっちかだろう。

ナナはロッカーから財布を出すと、
電車とバスを使って空港に行った。

パスポートは十二歳に
スパイ入りした時から持っている。
ナナは、母は普通に暮らしているが、
父がスパイなのだ。

ナナは母に電話した。

「もしもし?」

『ナナ?どうしたの?』

「今日はパパのとこに行くね。」

『ええ。』

二人は別居しているが仲が悪いわけでは
ないのでナナはどっちにいっても
いいことになっている。

母との連絡のあと、
ナナは学校へ電話した。

『はい、〇〇学校です。』

「こんにちは。三―二の柊奈々です。」

ナナは、苗字を母の柊にしている。
名前はカタカナではさすがにおかしいので
漢字の奈々にしている。

「明日から家の用事で
 学校をしばらく休みます。」

学校側はすっかり騙された。
ナナは無断欠席は絶対にしないし、
成績も五十人中五位以内に入っていて
素行もいい。

それに休みは
一~三年総合して三回くらいだ。

ということで、小言も言われない。
いや、もしかしたら、
いじめられているナナを
見て見ぬふりをしている先生たちが、
しばらくは厄介ごとが減ると
思っているのかもしれないが。

ナナはもっぱら後者の意見だった。

「ばっかみたい。
 私がちょっとでも頭をひねれば
 学校のなんかすぐ廃校になるのに。」

ナナは半分スパイモードになった。
移動中はいつもそうしている。
そして、飛行機の乗客の中に、
怪しいものがいないことが分かると、
ドッと疲れが出て、
ナナはすぐに眠ってしまった。