Pacifism Spy

しかし、

「帰るんだ。」

席を立ったと同時に
五人の中のリーダー格の子が言うと、
腰巾着の二人がナナの腕を両脇から
掴んだ。

「なら付き合ってよ。」

背中も押された。

「放して。」

ナナはもがいたが両隣の二人は
がっちりと掴んで
放してくれる気配さえない。

振りほどいてもその間に
他の三人が邪魔するだろう。

ナナは今までにも
こうゆう目にあってきた。
きっとこのまま校舎裏に連れてかれ、
水を掛けられたり、殴られたり
蹴られたりするのだろう。

しかし、スパイはいじめられて
目立たないくらいか、
そこそこ友達もいて、そこそこの成績で、
いてもいなくてもクラスを左右しない
くらいかのどっちかがいいのだ。

ナナはスパイモードになると、
見た目は変わらないがロボットのように
何も感じなくなる。

それに、ナナも含め、
平和主義スパイは九割の人が
ライバル心や憎しみの
感情を持っていない。

ただ、ストレスは溜まる。
ナナは今日ニーナの声を聞けて
よかったと思った。
純粋で可愛いニーナの声は、
聞くだけで癒される。

そう思っていると、
いつの間にか街中になっていた。
いつの間にか靴も履き替えていた。

「ここよ、ナナ。」

リーダー格の子は
新しく出来たばかりの
アクセサリー店の前で止まり、
チラシを渡してきた。
いくつかの商品に丸がついている。
どれも二千円以上のものだ。

「なに?」

「これ、すっごく欲しいんだ。でも、
 あたしのママが来月まで
 お金くれないんだ。」
「これ、全部買ってきてよ。」
「盗ってもいいからさ。」
「そしたら今日のことチャラにしてあげる。」
「できるよね」

ナナは仕方なく店内に入った。
しかし、ナナは今、お金を持っていない。
駅のコインロッカーの中だ。
二、三日前にこの五人に
お金を財布ごと盗られそうになったので、
用心のためだった。

当然ながら、アクセサリーを
買うお金はおろか
公衆電話の電話代十円さえもない。
だからといって、
五人のために危険を侵してまで
万引きしようとは思わなかった。

ただ、手ぶらで出てくればどうなるかは
火を見るより明らかだ。
考えた末、ナナは店員に声をかけた。